華の乱
□美女にも地獄《未完》
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こちら地獄。
鬼灯はせっせと準備をしていた。
「閻魔大王、ただいまから玲鳴様をお迎えに桃源郷へ参ります。あとのこと、よろしくお願いしますね」
「わかったよ、気をつけてね」
「仕事が進んでない、または増えてるなどのことがあれば相応の措置を下します。いいですね」
「は、はい」
力関係が解らなくなる会話だが、立派な上司と部下の会話である。
では、と去っていく鬼灯の後ろ姿にため息を吐いた閻魔大王だった。
ところかわり、こちらは桃源郷。
玲鳴は片付いた荷物に手を置いて汗を拭いた。
「言うほど無いけど、片づけんのしんど!」
一人暮らしの玲鳴だが、片づけてるうちに写真やらなんやら過去の作品など出てきて見入ってしまう。
進まないのも頷ける。
「そろそろ来るな…」
そう思ってドアを開けると、案の定、朧車二台を引き連れてきていた。
「おはようございます」
「あ、おはようさんです。わざわざのお迎え申し訳ありませんなぁ…」
「いえ、来ていただく側ですので至極当然です。」
荷物をヒョイヒョイと朧車に積む鬼灯。その腕力に開いた口が塞がらない。
「鬼灯様、えらい腕力ですねぇ…」
「鬼としては普通ですがね」
「このデスクなかなか重いですよ?腰痛めますよ?」
「この程度では地獄の官房長官は務まりません。さ、荷物は着みました。お手をどうぞ」
最後はあなたです、と手を差し出す鬼灯。エスコートが鬼のくせに完ぺきであるのを見て取った玲鳴は、少し照れながらその手を引く。
「では、地獄までお願いしますね」
そう告げて走り出す朧車。すると、少し離れたところから声がした。
「?…今『玲鳴ちゃーん』って」
「何か聞こえますね」
暖簾をめくると、白衣をはためかせて走る白澤がいた。
「は!白澤?」
「あの淫獣何をしでかすつもりでしようか。現世の恋愛ドラマの見すぎですね」
「ちょ、すみません。止めてください」
「え、」
唖然とした鬼灯を余所に、玲鳴は、暖簾をめくり白澤の方へ顔を向ける。
「白澤!」
追いついた白澤が、暖簾から顔を出した玲鳴の首を抱きしめた。
「お見送りくらい……はぁ、させてよね。水くさい……はぁ、はぁ、」
「は、はくた」
ギュッと力を入れた白澤。玲鳴は、落ちそうになるのをこらえて支えた。
「ホントはどこにも行って欲しくない。僕だけの玲鳴ちゃんなのに…。でも駄目なのわかってる。だから、たまには顔見せてね」
「わかった」
「おい鬼灯!」
「なんですか、騒々しい」
超不機嫌の鬼灯が、超低音の声で返事をする。
「玲鳴ちゃん、頼むな」
「ええ、丁重にお招きしていずれは私のものです」
「もっぺん言って見ろカス!」
「カスにカスとは言われたくありません。第一、玲鳴様はあなたのものではありません。勘違い無きよう」
「っく…」
言いくるめられた白澤は、そっと玲鳴の顔に手を添えた。
「何かあったらいつでも帰っといで。」
「とりあえず明日のパーティー会うでしょ?白澤のくせに女々しいな」
「うっさいよ」
最後はクスクス笑いながら離れた。
「気をつけて」
桃源郷を離れた朧車からは、もう白澤は見えなくなって…。少し寂しくなった玲鳴。
鬼灯は、はぁ…とため息を吐いて玲鳴の前に座す。
「白澤と離れたのが寂しいですか」
「というより、桃源郷から出たことがないので。これから先の不安と、安定したとこを離れる寂しさって初めてなので……、うわっ!」
玲鳴は鼻をくすぐる匂いと、鍛えられている胸板に押しくるめられている、、、ということに気づくのに時間がかかった。
「私が埋めて差し上げます」
「え」
「寂しさも恋しさも、全部全部埋めて差し上げます。どうか、傍にいてください」
「ほ、鬼灯様…」
胸の鼓動が高まる玲鳴の胸に手を当て、鬼灯は語る。
「今はぽっかりと開いた心の穴も、私が、私で埋めてみせます。そして、私以外…」
グイッと頭を寄せて、耳元で呟く。
「求めれないようにして差し上げます」
低い低い声に腰を抜かす玲鳴。力の抜けた玲鳴を膝に置いて満足げな鬼灯だった。