華の乱
□リスキーゲーム
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【玲鳴side】
こんな田舎の学校、いつか辞めてやる。そう意気込んだものの、入ってしまえばやりがいはそこそこある学校で……。
そんな私に、馴れ馴れしくも話しかける男がいた。
西川一。
農業科学科一年。食品科の私とは畑の違う世界の人物。
そもそも私は、私に言い寄る男が嫌いである。
見た目は日本人を逸脱していて、そこらのハーフタレントと変わらない。
正直、以前居た学校では最悪のことばかりだった。
彼氏を盗っただの
(しょーもない男を相手にするから悪いのであり、そんな男を野放しにして言いがかりをつけるテメーも悪いと言ってやった)
浮いてるだの
(交わろうとしないだけだ)
良い子ぶってるだの
(良い子ぶってはいない、良い子なだけだ)
たらしだの
(たらしではない、勝手によってくるだけ。見た目やステータスを重視する頭でっかちなヤローどもめ)
さんざん言われてきた義務教育時代を教訓に、もういっそ高飛車キャラで行こうかと思ったら、ここの学校はそうはさせてくれず、今やエゾノーのマドンナと称されるようになった。
ここにいるみんなは、前の奴らと違う。
そう安心したのも、西川一。彼のおかげでもある。
そう、こんなことがあった。
酪農科の八軒が、ベーコン(豚)を育てていると噂になった。
同じ科の池田さんが、どーしてもほしい。でも話しかけられない…とモジモジしていたから、私がついてってあげる。。。そう言ってあげた。
酪農科について、池田さんを立たせると、なんともひ弱な彼女は怖じ気づいてしまった。仕方なく、私が呼ぶ。
「すみません。八軒君はおられますか?」
クラス全員がこっちを向いた。いやな予感がする。
案の上、「八軒に春だー!!」だの「先越された」だの「すげー」だの、嬉々とした声が挙がる。
「あ、あの…」
顔を赤らめながら来た八軒。見た目は派手じゃない、でも地味でもない。けど心に何か潜んでそうな、闇を抱えてそうな彼がモジモジしながら来た。
「あ、私じゃないの。彼女」
そう言って後ろに控えていた池田さんを差し出す。
教室からため息がこぼれた。
こっちがため息吐きたいくらいなのに…
「あの…」
「うん」
「ベーコン売ってください!」
「あ、良いよ」
任務終了。
帰ろうとしたときに肩が誰かと当たった。
「あ、すみません」
「いや、大丈夫?」
「あっ、はい」
そう離れようとしたら、後ろ髪が引かれた。
「っっ!」
「あ、引っかかってる。動くなよ?」
そう言って、ぶつかった“彼”は絡まった髪を解こうとしてくれた。
「引きちぎってくれてかまわないのに」
「バーカ、髪は女の命だろ?そんなんでここまで綺麗に伸ばした髪を無碍に出来ねーよ」
「すみません」
そうして至近距離で作業を進める。
指が綺麗、変に紳士的。そう思いながら彼を見ていると、彼の細い目がこちらを向いた。
「ひっ!」
「何見てんだよ。」
「や、その」
「見られてるってなかなかやりづれーんだけど?」
「ごめんなさい…」
ちまちまと髪の毛を解いてくれ、緊張から解放される。
「ありがとうございます…」
「や、良いよ。そうだ、これあげるからくくっとけよ」
「え…」
そう言って渡されたのは、かわいい鮫のヘアゴムだった。
「、!!!!!」
「たまたま持ってたからやるよ。」
「か、可愛い…」
「好きなんだろ?」
そう言って去って行った彼。
名前が…、そのときは分からなかった。
でも、すっごい好きになってしまった。
ちょうど良い距離感、心地いい言葉遣い、なによりも柔軟で驚きばかりの対応に心が奪われた。
全てはここから始まっていた。