ツェペリの金うさぎ
□歯車は動いていた
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「なんだ、テメェ」
金の飾りのついた帽子に、チェーンがついているコートを着た大男は、日本語らしい言葉で話しかけてきた
使用人兼友達のミサキに教えてもらったので日常会話くらいはできる自身はあったのに、おかしいな
エレナはこちらを睨みつけているエメラルドグリーンを見つめ返した
歯車は動いていた
「ついたみたいだね、パードレ」
「あぁ」
日本、イタリア語ではジャッポーネ
極東の国で、ヨーロッパとは違い目も髪も真っ黒な種族がいる。積極的なアメリカ人とは違い、奥手で気の利く性格として有名だ
キャリーバッグのタイヤを転がしながら、エレナは物珍しそうにあたりを見渡した
初めての日本に喜んでいるエレナを愛おしそうに見つめながら、シーザーはコートの内ポケットから年代物の時計を出した
「ふむ、ちょうどいい時間だな」
「ジョセフおじいちゃんはまだ来ていないみたいよ…あ、お手洗いに行ってきていい?」
「あ、あぁ、行っておいで。ここで待ってるから」
ジャァー
蛇口をひねって水を出す
「…よかった、噂の”ワシキベンキ”だけじゃあなくて」
手触りの良いガーゼのハンカチをポケットからだしながら、エレナは安堵した
写真で見たあの不思議な形はどうも耐えられそうにない
トイレからでてシーザーを探す
ドンッ
振り返った拍子に人にぶつかってしまった。目の前に広がる黒。鼻への衝撃にとっさに出た言葉は、言うのを止めるより早く舌に飛び乗って口から出ていった。
「ゔ、固い」
言ってしまってから、後悔しては遅い。何か言い訳をしなくてはと顔を上げると、そこはシャツの上からでもわかる立派な胸筋だった。どれだけ身長高いの?そう言いかけてエレナ視界に入ったのは、襟の部分からぶらさがった金のチェーン。顔をさらに上げると、厚く形のいい唇が開いて今まさに音を出そうとしていた。
「なんだ、テメェ」
(帰ったらミサキにもっとたくさん日本語教えてもらおう)