海賊長編1/非日常

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「二次元に行きたい漫画に入りたい麦わらの一味に入りたい!!!」

唐突に大声を挙げた颯斗に、拓海は肩を揺らした。その反動で、頼りない雑誌のページが少しだけ破れてしまった。

「何だよもー…まーたワンピース?」

颯斗は良く漫画やアニメ等の話をする。それに対して拓海は、こうしてファッション雑誌は読むのだが、漫画やアニメは必要最低限しか見ない。そのせいで、この類いの話しでは二人の話が噛み合う筈がないのだ。しかし、颯斗はソレを気にする様子は全くないため、拓海は一方的にマシンガントークを浴びせられている。当の拓海はというと、正直な所、毎回同じ話な為、いい加減ウンザリとしていた。

「またっておまっ…!!俺が愛する漫画だぞ!?」

「はいはい、んで?」

「拓海も読めよ!キャラ良し、ストーリー良し、絵柄も良し!あーもう完璧!!」

自分を抱きしめ、今にも飛び掛かりそうな勢いで話す颯斗に思わず笑みが零れた。だって、こんなに必死なんだもん

「何か、読みたくなってきたー」

再度雑誌に目を落とし、ページを捲った。それと同時に両肩を捕まれ、嫌な音が耳を刺激した。雑誌のページは、見事に破れ、イケメンモデルの顔に亀裂が入ってしまっている。これが自分の物であれば、また話は変わって来るのだが、残念な事にこの雑誌は目の前の颯斗の雑誌。そして、おれは借りている身。

「マジで!?」

「だから貸してよ」

「貸す貸す!!明日持ってくる!!」

満面の笑みを浮かべた颯斗に、拓海も笑みを浮かべた。こんなに薦めるなら、相当面白いに違いない。そして、おれはそっと雑誌を閉じ、また笑った。

「ちょっと楽しみ」

「えーちょっと?」

もう一度笑みを作り、雑誌を颯斗に押し付ける様に渡すと、肩を叩いて席を立った。

「よし、部活行こうぜ!」

「おっしゃ、部活中に語ってやる!」

「読むからいいってー」

「まあまあ、」

そして、颯斗は後ろから拓海の肩に手を回すと、二人はじゃれあいながら部室に向かった。


―――…


「お疲れ様でしたーっ」

二人は、先輩に向かって挨拶をした後、部室を後にした。

「でな、ルフィがそこで…」

颯斗は部活中に、飽きもせず拓海に語っていた。颯斗のマシンガントークを浴びせられる拓海には、多くの同情の眼差しが送られていた。アップをしている時も、ランニングの時も、基礎練の時も、止まることなく颯斗のトークは続いた。どうしてそんな事出来んの?何、お前の体力って底無し?すごくね?

「拓海ー聞いてる?」

「聞いてなーい!ネタバレ嫌ーい」

「何だよーそれを先に言えよー」

「え、言ったら止まったの?」

「止まると思う?」

「思わないな」

「だよなーさっすが拓海!」

「嬉しくねぇよ」

何が面白いのか、颯斗はひとしきり笑い、拓海の肩を叩いた。

「まっ明日持ってくるな」

「おう、よろしくなー」

じゃあと二人は軽く手を挙げ、各々の帰路に着いた。拓海は、夜空を見上げ、クスリと笑った。颯斗の何にでも熱くなる所が好きだった。彼とはこれからも仲良くなるのだろうとマフラーに首を埋めた。今日くらいは、颯斗が麦わらの一味に入る夢でも見てくれたらいいなあと思いながら、駆け出した。




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