海賊長編1/非日常
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着いた島は、活気溢れる街があり、緑のある綺麗な島だった。例えるなら、ヨーロッパの風景だろう。フランス人のようなサンジにとても似合う島だった。
市場に向かうと、所忙しと並んでいる小洒落た屋台に野菜や果物が並べられているのを見ていると、テンションが上がっていくのが分かった。
「タクミ、少しは大人しくしろよ」
そんなおれを見兼ねてか、サンジが呆れ気味に言ってきた。
「だって知らない物ばっかりなんだぞ!そういうサンジだって結構はしゃいでるじゃん」
「おれはお前みたいに、アホみたいじゃねェからいいんだよ」
「アホ!?」
サンジにアホって言われるのは心外だ。ナミとかロビンにデレデレしてるサンジの方が絶対アホだと思う。
「わっ…!あそこになんか変なのがある!!」
行こう!と腕を掴んで走りだした。否、走りだそうとした。
「あの……人違いかと…」
知らない人の声が聞こえたので慌てて振り返ると、おれが腕を掴んだのはサンジではなく、知らないお兄さんだった。
「あ、すいません!」
やはりおれはアホかもしれない。市場に来て、ものの数分でサンジとはぐれてしまった。迷子になったらその場から動いてはいけない、というのは良く聞く話だ。…だけど、こんなに人混みの中、動かないのは至難の技。
キョロキョロと辺りを見渡していると、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、おれと同じくらいの少年がにこりと笑って立っていた。
「ちょっと、ついて来て」
「わっ、ちょっ…!」
その場からあまり動きたくないおれは、足に力を入れたが、それ以上に少年のおれを引っ張る力の方が、格段に大きかった。
――――…
途中から抵抗することを諦め、大人しくついて行ったのはいいが、どんどんと山奥へと進んで行くため怖くなってきた。
「ねぇ、君は夢の中でリアルな五感が働くと思うかい?」
「え…?」
突然立ち止まった少年の話はまるで、
「人間ね、『何か』の力を借りれば、簡単に違う世界に行っちゃうこともできるんだよ。自力では行けないけどね。」
おれは夢の中にいるわけではない。とでも言いた気で。そして何より、
「君がおれをこの世界に連れて来た張本人ってこと…?」
おれを見てニヤリと笑う、目の前の少年の意図が汲み取れない。だいたい、今さっき会った人のことを信じるなんて馬鹿げてる。でもそれが一番、辻褄が合うのも確か。
「でも、なんで…?」
「それは、話すと長くなるんだ。とにかく座りなよ。」
よっこらしょ、と岩に座り込んだ少年が、何だか気味が悪い。
「あれ?君は座んないの?」
「おれはいい」
あっそう、と興味なさ気に呟いておれを見上げた。
「僕たちはね、君たち人間がとにかく幸せになればいいと思ってるんだ。これでも一応、ね。」
ゾクッとするほど冷たい風が顔を撫でた。
「それでも君たちには強く生きて貰わないといけない。甘やかせばいいって問題じゃないんだ。『本当の幸せ』になってもらいたい。
しかし君たちは、自分の力では『本当の幸せ』を見つけられない人が圧倒的に多い。死ぬギリギリまで待ってあげても、だ。
だからせめて三途の川を渡ってしまう前に、これまでにない幸せを味わって貰おうと、今までいた世界とは違う世界に『トリップ』してもらうわけ」
こんなぶっ飛んだ話、信じる方がおかしい。でも、もし、これが本当だったら、おれは…
「ああ、大丈夫。君は死んでない。まだ先があるからゆっくり聞いて。」
背筋が凍るように冷たくなった。
そこで少年はふうっと息をついて話しはじめた。
「何にでも例外は付き物だ。そうだろう?
君の友達に、この違う世界に来たいって言ってた奴がいただろう?あれ、君にはただの戯言だったと思うけど、彼の意志は本物だった。だから、僕もね、力を貸したくなってね。
彼を『トリップ』させようと思ってコードを控えたんだ。あ、君たち人間には一人一人コードがついていてね。それが僕たちには君たちの頭の上に見えるんだ。」
「こういう風にね」と少年は自分の頭の上に文字を書いて見せた。空中に文字が浮かぶ。その文字が頭上に張り付くように羅列した。こいつ、人間じゃない…!
「それは、後で説明するから」
また、だ。頭の中で考えたことを読んだ様に話す少年に、嫌な汗が背中を伝った。
「で、えーっと、どこまで話したっけ…。あ!そうそう、だから君の友達のコードを書き写したんだけど……そのコード、君のだったみたいで………間違えちゃった!」
テヘッと小首を傾げ、「ごめんねっ」と悪そびれもなく謝ってくる姿にイラッとした。
「え?じゃあ、おれは間違えてこの『違う世界』とやらに来たってこと…?」
「うん。そういう事になるね!」
「ね!じゃねェよ!!おれがどんだけ悩んだと…!」
「まあまあまあ、いいじゃん!楽しんでるみたいだし!」
「そういう問題か?!」
目の前の少年は今までニタニタとしていた表情を一転させ、真面目な顔をした。
「そういう問題だね。だって僕たちは、サービスの一環としてしてるんだからさ」
少年の目の奥がギラリと光って見えた。
「で、だ。そろそろ君だけに構ってる暇はなくなってきたんだよね。僕だって忙しいんだ。」
「、それってどういう?」
「タイムリミット、だよ。」
「え…?」
「そろそろ君には決断してもらわないといけない。この『違う世界』に残るか、『元の世界』に帰るか、を、ね。」
「残るか、帰るか…?」
「ちなみに言っとくけど、元の世界にいる君は、現時点では、『行方不明』ってことになってるよ」
じゃあ、家族も颯斗も友達も、みんな心配しているだろう。本来なら帰る選択肢を選ばなければいけない。わかってる、そんなこと。この間までは迷いは無かった筈だ。でも、せっかくサンジに会えたのに?せっかく仲良くなれたのに?ルフィが、みんなが、せっかく仲間だと言ってくれたのに……?
「…君には迷いがあるみたいだね。好きな人も出来ちゃったみたいだし。でも、君は忘れてはいけないことを忘れているよ」
目の前の少年はさっきよりも真剣というよりも、睨みの効いた目でおれを見た。
「君のいるべき世界はココじゃない」