海賊長編7/不良
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担任から転入生が来ると聞いたとき、こんな時期に来るなんて珍しいと思った。もしかしてレディか?と期待したが、男とだと言うので興味がなくなった。おれの隣の窓側の席が一つだけ空いている。きっとここに来るんだろう。レディだったらまだ届いていないであろう教科書を見せてあげたりと楽しいことがたくさんあるのだが、男だ。正直、男と机を合わせて同じ教科書を見るなんてしたくねェ。
そんなことばかり考えていると、担任が教室に入ってきた。転入生が教室に入ってくると、教室内の空気がざわついた。どんな人だろうと各々期待に胸を膨らませていたが、それが一気に萎(しぼ)んでいくのが目に見えてわかった。
「…野崎日向、よろしく」
ボソリと気怠(けだる)そうに呟かれた名前が記憶に引っ掛かった。今まで興味が全く無かったので、転入生を一瞥しただけで後は窓の外を眺めていたが、聞き覚えのある名前に前を見ると、ヤンキーが一人。おれの記憶にある野崎日向はサラサラ黒髪に人懐っこい笑顔、人当たりの良い好青年、そして最後に見た傷ついた顔。
どれを取っても似ても似つかない。痛みきった茶髪に冷たい表情、人を寄せつけない不良少年。それでも顔の形などはそっくりだった。
予想通り隣の席に座った日向はやはり違うやつなのかもしれないと思うほど、全くの別人のようだ。転校した先で何かあったのだろうか、クラスの人気者だった爽やかな少年はクラスから疎まれるヤンキーになるなんてそうそうない。
「…日向?」
それから、少しだけ話した。日向はおれに話しかけるなと言い、窓の外を見てしまった。これといって話すこともないのだが、この短時間でわかったことが二つある。一つ目は、以前の日向はどこにもいないということ。二つ目は、おれはすっかり嫌われているということだ。
「サンジー!腹減った、飯!」
当然の如く隣のクラスからやってきたルフィに隣の日向がピクリと肩を揺らした。
「ルフィ、いつも言ってんだろうが。昼まで待て」
「お?サンジの隣、そんなやついたっけ?新しいやつか?」
ルフィは興味津々という様子で日向を見ている。
「おれはルフィ!よろしくな!」
にこにこと日向を見るルフィを心の中で慰める。そいつはルフィが仲がよかった日向だぞ、でももうあの頃の日向じゃない日向だ。
「…ん?お前どっかで見たことあるような…」
ルフィが日向を見たまま首を傾げ、唸り続けている。
「ルフィ、そいつ日向。中学んとき同じクラスだっただろ」
「お前日向か!!なんか変わったなァ!でも嬉しいぞ!!また一緒に遊べるな!」
ルフィは本当に嬉しそうに笑った。そんなルフィに日向は口元を微かに歪めて笑った。
「…ルフィは変わってねェな」
「にししっ!」
…これはどういうことだろうか。ルフィとは普通に喋ってんじゃねェか。
「お前ら、仲良かったもんな」
おれは二人を見ながら、微かに中学時代の姿が重なる気がして懐かしい気がした。
「おう!」
ルフィは日向の肩に手を回し、にこにこと笑っている。
「チッ、話しに入ってくんじゃねェよクソ眉毛」
「あ゙ァ?」
それに比べ、こっちはうぜェ。なんで一々突っ掛かってくる必要がある。心当たりは確かにある。中学のときのフりかたが悪かったんだろう。しかし、なんだこいつ。まだ根に持ってやがんのか、おれはお前がこの教室に来るまですっかり忘れてたってのに、
「話してくんなっつっただろうが、もう忘れたってか、ハッ」
あーもうこいつなんか知らねェ。絶対話してやらねェ。
さっさと席替えをして欲しい。