海賊長編7/不良
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驚いた。とにかく驚いた。半ば冗談で言った言葉がまさかの図星で、その上あんなにキレるとは思わなかった。それほどおれにとってはとっくの昔に終わってしまったことであったし、記憶の端に追いやったことだった。あの告白されたときは何となく裏切られた気分だった。そりゃそうだ。仲が良くて信用していた奴がおれを好きだったなんて考えられなかったし、そういう下心のある気持ちで接されていたのかとショックだった。どこをどう考えてもいい方向には考えられなかった。だからおれはそのことを忘れた。だからとっくの昔に終わってしまった問題だった。
でも、昨日の日向の言葉を聞く限り、相手はまだまだ根に持っているし、忘れられないことだったらしい。おれはあの告白の返事は何と返しただろうか。それすらも覚えていない。でもきっとひでェ言葉だったに違いない。それがおれへの態度とルフィたちへの態度の違いだろう。ルフィたちには時折笑顔を見せるくせにおれにはしかめっ面しか見せない。そうとう根に持ってるな。
「おい、」
おれは顔の所々に青黒い痣を作った日向に話し掛けた。昨日の今日でまたキレるかもしれない。
「…テメェは一晩で言われたこと忘れんのか」
「いや、覚えてる」
「…じゃあ失せろ!!!」
突然声を荒げた日向はどこか無理しているように見えた。
「話がある」
「おれはねェ」
「おれはあんだよ」
「おれはねェっつってんだろ!」
埒が明かないと思ったおれは日向の腕を無理矢理掴むと屋上まで強引に引っ張って行った。日向が後ろで暴れているが料理人(見習い)、ナメんな。力は人並み以上にはある。
「テメェ!離せゴラァ!!!」
「まだだ。少し黙れ、うるせェ」
「なっ…!!クソ!!!」
少し静かになった日向に悪いことをした、と思った。女性相手に告白するのにも勇気がいるのに男のおれに告白するとなればとてつもない勇気が必要だっただろう。あのときはそんなこと考えられる余裕なんてさらさらなかったのだが、今なら冷静になって考えられる。おれはその勇気を踏みにじったのだ。そりゃあ根に持つに決まっている。
屋上のドアを開けるとまだ夏の匂いが残った風が吹いてきた。
「んだよ、さっさと言え」
重たい音をたてて閉まった扉を見た。きっとおれは日向に心を閉ざされている。それだけじゃねェ。嫌われているだろう。この目はおれを拒んでいることが良くわかる。少しも隙を見せず、警戒し、威嚇している。
「…お前がそんな姿になったのっておれと関係あるか?」
「………………ねェよ」
日向はボソッと呟くと大きく舌打ちをした。
「関係、あんのか」
何も考えていなかった数年前のおれが、ただ思ったことを口に出してしまったおれが、こいつの人生、狂わしちまったのか…?
「いいか、もう一度言う。おれに話しかけんな。おれの前に現れんな。おれに関わんな。」
「……」
首を縦に振るも、横に振るもできないでいるおれを日向は鋭く睨み上げた。
「…おれはテメェが世界で一番嫌いだ」
そう言った日向の表情はどこか傷ついた顔をして謝った日向と重なって見えた。