忍たま長編1/勿忘草
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「ふぁ…いい天気…」
おれは青々と広がる空を見上げた。今日は高校の入学式だ。今年の桜は遅咲きだったため、未だに咲き乱れている。おれと同じように真新しい制服を着た奴らがたくさんいる。流石に高校の入学式に親と一緒に行くなんて奴はあまりいないらしく、一人、または友達と緊張した面持ちで合否発表以来、訪れていない学校に各々向かっていた。
学校に入ると先輩であろう人達が「ご入学おめでとうございます」と言うことが義務付けられた言葉をにこやかに発している。
組分けが書いてある紙を見上げる。一ノ宮は…あった。一組か、靴箱が近くて助かる。
教室に入るとすでに何人かの生徒は席に座っていた。緊張した空気が伝わって来る。おれの隣の奴はまだ来ていなかった。
友達、できっかな
ガラにもなくそんなことを不安に思いつつ、誰も喋らない教室の空気は若干重たい。
廊下では話し声が聞こえる。きっと中学が同じだったんだろう。おれは同中の奴は一人もいないため心細い。大丈夫だろう、中学でも友達はすぐにたくさん出来たじゃないか。
「また文次郎と同じクラスか」
「い組で6年、小中9年同じだと流石に気味悪いな」
「他の奴らも変わらんみたいだしな」
大人っぽい雰囲気の二人組が教室に入ってきた。一人は隈のある高一には全く見えない奴、一人は紫掛かったサラサラヘアに色白の見た目クールな奴だ。その二人は黒板に貼ってある座席表を見て固まった。
「おい、文次郎…」
「あぁ、やっと、見つけた…」
そう呟いた二人は勢いよく振り返った。その様子をぼーっと見ていたおれとバチッと目が合った。
「渚…!!」
「はい…?」
今日初めて会った男に名前の呼び捨てをされ、思わず眉をしかめた。
「ちょっと来い!!」
隈のある奴に腕を捕まれ、教室の外へと連行された。
「文次郎、おれは他の奴らに言って来るから屋上に行ってろ!」
「恩に着る!」
サラサラくんは他の教室に駆け込んで行った。変な奴ら…
油断していると、また突然腕が引っ張られた。
「わっ、ちょっ、何!」
目の前をずかずかと歩く奴に話しかけるが、無言が返ってくる。
何なんだ、ほんと…
やっと着いた屋上の扉が閉まる音がした。その瞬間、抱き着かれた。
「うわっ!やめろ!!」
「渚、やっと見つけた…!!」
もう何なのさっきから。突然呼び捨てにしたり、突然抱き着いたり…
「今までどこいたんだよ、」
「どこって…」
「渚以外はみんな小学校で再会したんだぞ」
「再会って、おれ、初対面…」
強く風が吹いた。思わず足に力を入れてしまうほど。
「冗談、だろ…?」
目の前の、とても高一とは思えない奴が、それはもう、おれの胸まで痛くなるほど傷ついた顔をした。
ガチャッと扉の開く音と共に屋上に飛び込んでくる姿が目の端に映った。
「渚ー!!!やっと会えたな!!!おれはまた体育委員に入るぞ!!」
「小平太、空気を読め」
「久しぶりだなぁ渚!前みたいに怪我はしていないかい?」
「……………久しぶりだな」
「お前は合流するのが遅すぎだ」
みんなおれを知っている様子だが、見たところ知っているやつは一人もいない。おれが無言で首を傾げていると、違和感を感じたのか、一人が少し慌てた様子でおれの隣を見た。
「文次郎、」
「………覚えてねぇ、みたいだ……」
覚えてねぇって、何を?こいつらは何を知っているんだ、こいつらは何なんだ
「え…」
「嘘、だろ…」
全員から落胆と絶望に似た声が聞こえた。そんな中、どんな奴よりも傷ついた顔をしているのはこの、文次郎と呼ばれた奴だった。