忍たま長編1/勿忘草
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「渚、」
「なに」
「会計委員に入るぞ」
「はぁ?」
今は、ホームルームの時間で、係決めをしているところだ。できれば楽な係がいいなぁと思っていると、よりによって忙しそうな委員会の名前を挙げやがった。ふざけんな、おれは楽なのがいいんだ!
「ふざけんなよ…っておい!」
潮江はおれの意見なんて聞く耳を持たず、さっさと黒板に名前を書いてしまっていた。おれの名前までご丁寧に。
「あああ…」
落胆の声を漏らすと、ニヤリと笑った潮江が目に映った。ちくしょう…
「ま、宿命だ」
「………はぁ?」
不満げに潮江を見ると、少し寂しげな表情をしていたので、思わず目を逸らした。
潮江は、待つと言ったあの日から、電波みたいなことを言わなくなった。
でも、時々、寂しそうにしているのを見ることがある。それは、おれといるときだけではなく、立花やその他愉快なお友達と一緒にいるときに、寂しげな、悲しげな、切なげな表情を浮かべる。
それに一々、胸が痛くなる。
なんでかなんてわからない。でも、チクリ…と痛むのだ。
「文次郎はまた会計委員か」
「そういう仙蔵は生活委員か」
「作法委員とすること似てるだろ?」
「まぁな」
潮江と立花が昔話に花を咲かせている。なんだか羨ましくなった。
「へぇ、お前らの中学って作法委員とかあったんだなー」
すげぇ、と潮江と立花を見ると、潮江がまたあの顔をした。
「………そうだな」
潮江は何とも言えない複雑な表情をしていた。立花はそんな潮江をちらりと見ると、潮江の肩に手を乗せた。
なんでおれが悪いことを言ったみたいな雰囲気になんだよ、なんでおれが悪いことをした雰囲気になんだよ、なんで潮江はそんな顔すんだよ、おれにはわからねぇんだよ、わからねぇから困ってんだろ、潮江が言った言葉も、潮江の友達が言った言葉も、あの『覚えてねぇ』ことも、その『待つ』意味もわかんねぇのに。
潮江は何を知ってんの?
出かかったその言葉は、潮江の表情を見ると、到底言える言葉じゃなかった。