短編

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これが『監視』ということを忘れてしまいそうになるほど、おれはサンジの隣にいることに慣れてしまった。

放課後のサンジは昼間のサンジとは違うけど、おれには素を見せてくれている、ということが嬉しかった。今までは、遠くから憧れているしかなかったサンジが今は近くで接することができる。おれはそれだけで十分な気がした。

それでも、意地悪でかっこよくて、それでも時々優しいサンジが前よりもずっと好きになっていた。

抱いてはいけない感情を抱え、サンジと接することに、多少抵抗はあったが、そんなことを言って離れてしまっては、また、遠くから憧れるだけになってしまう。そんなの、嫌だ。

「竹本くん、」

放課後の教室でサンジを待っていると、教室の前からクラスの女子が入ってきた。サンジと仲のいい子で、サンジの取り巻きさんのうちの一人だ。

「どうしたの?」

「最近、サンジくんと一緒にいるなぁって思って」

「はは、」

派手な雰囲気の女の子はあまり得意じゃない。くりくりの目にばさばさの睫毛、整った眉毛に、艶のある唇。可愛く作られた女の子が羨ましい。…サンジもこんな子が好きなんだろうな、

「…竹本くん、最近綺麗になった」

「……………え?」

きゅるん、という表情でおれを見つめる。

話しが飛びすぎてついていけない。

「…あたしね、かっこいい人より綺麗な人がタイプなの、」

「……へぇ…」

どうすればいいのかわからなくて、目を逸らした。

「……わからない…?」

………こんな経験、初めてだからどうすればいいのかがわからない。わからなくて困ってる。

「…わからない…」

「………好きなの、」

そう言うと、おれにジリジリと近づいて来る。それに比例しておれも下がる。ついに教室の端に追い詰められた。どうしよう、どうしよう…!

「好きな人、いるからっ…!」

搾り出した声は思った以上に教室に響いた。

「へぇ…、知らなかった」

教室に響いた声は女の子のものではなく、サンジのものだった。

「サンジ…」

サンジはにこりともせずにおれたちに近づいて来ると、一瞬冷たい視線を寄越したが、すぐに昼間のサンジに戻った。

「…ごめん、邪魔した?」

その言葉には悪意しかこもっていなかった。おれは、目の前の女の子に目を戻すと、苦笑いをして、

「…友達なら…」

「…そっか、」

シリアスな雰囲気が教室を包む中、その空気をぶち壊したのは紛れもなくサンジだった。

「…帰るぞ」

その声は、なぜか怒気を含んでいた。

しっかりと掴まれた腕を力いっぱい引っ張られ、もはや引きずられる形でサンジの後を追う。

「…んだよ」

「え?」

前を行くサンジが何かを呟いたが、ついていくのに必死で聞こえなかった。

「…何やってんだよ、」

「……?」

どういう意味、だろうか。あの子と話しているのがまずかったんだろうか。

「何、告られてんだよ」

突然立ち止まったサンジは、不機嫌そうな顔でおれに振り向いた。

「…何って…」

返答に困っていると、サンジは足早に歩きはじめた。

「え、ちょっと、待って…!」

どうしたんだろう、なんで怒っているんだろう。何か、悪いことした?何か、不機嫌にするようなこと、した…?

不安になりながら、おれよりも大きな背中を追う。校門を出てもサンジは止まる様子もない。いつも立ち寄る喫茶店も、本屋も、CDショップも、どんどん通り過ぎる。

おれはサンジのあとを追っていていいんだろうか。もしかしたら今日はもう帰るのかもしれない。

立ち止まって、俯いた。ああ、もうわからない。どうしたらいいのか、わからない。

半ば泣きそうになっていると、おれの視界に革靴が映った。
ゆっくりと顔をあげると、そこにはサンジがいた。

「…何、泣きそうな顔してんだよ」

「だって…」

怒ってるじゃん、という口まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「チッ…」

サンジがめんどくせェな、とでも言いたげな雰囲気を醸し出している。

「………ムカつくんだよ、」

「え…?」

「…テメェはおれに監視されてんだろうが」

「……?」

監視、されている。だから…?

「…わかんねェのかよ」

「………うん」

本当にわからない。サンジが何を言いたいのか。

「……………独占欲が出ちまったんだよ………」

小さな声で、吐き出されるように言われた言葉は、素直におれの頭に入ってくれずに理解するのに時間がかかった。

「……うそ……」

「…嘘だったらどんなにいいと思ってんだよ、イライラすんだよ、お前が他の誰かといんの」

サンジは言いにくそうに顔をしかめている。

「これじゃあ、まるで…クソッ、」

不機嫌な声色でサンジは吐き出した。

「………すき、」

「…は?」

おれは思わずサンジの制服を少しだけ掴んだ。

「……おれは、前からサンジが好きだよ…」

「っ、おまっ、何言って…」


困惑を浮かべる目に


おれの気持ちが届くように。

「……………独占、してよ、」

独占欲があるなら、独占してほしい。だって、もう、それって

「………………好きって言ってよ…」

友達に独占欲なんか、湧かないでしょ?サンジ、好きだよ、おれは、前から、ずっと、ずっと。

「………んなこと……」

困惑と苛立ちを浮かべた表情をしたサンジを見つめる。

「………ずっと一緒にいたいよ……」

想いが伝わって欲しい。好きなんだと。今のままでは足りないんだと。

「っ…!!」

一瞬、目を見開いたサンジは、「はぁ……」と盛大に息を吐き出しながらしゃがみ込んだ。

「サンジ?」

「…………………降参、」

サンジはしゃがみ込んだまま、両手を軽く挙げると、もう一度「降参」と言った。

「……好きになっちまったみてェだ……」

おれはサンジに微笑みかけ、サンジの目の前にしゃがみ込んだ。

「おれも好き」

夕暮れの暖かな橙がおれたちを包み込む。これからもサンジは人気者で、裏表が激しくて、裏で番長なんかやっちゃったりして。きっとこれからもそんなサンジの後を追いかけて、もっと好きになっちゃったりして。そんないつもと変わらない日常に、一つ、キスでもあれば嬉しい。

「……竹本、」

小さく呟かれた自分の名前に、ドキリ、とした。サンジは、何かすっきりとした顔をしていた。

どこかで犬が鳴いている。人通りの少ない、この道で、おれたちは一つ、キスをした。







ミルクさまへ

裏番長サンジ×気弱な主人公くん

表は優等生なサンジの裏を知ってしまった主人公くん。サンジは徐々に主人公くんに惚れていく…

書いていて楽しかったです。でも中々難産でした(=^ω^=)楽しんでいただけたら幸いです。リクエスト内容に沿えているのかすごく不安です(´;ω;`) そして遅くなってしまってすいません(T-T)

リクエスト、ありがとうございました!






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