短編
□届いても、届かなくても
1ページ/1ページ
「なぁ、端場ー」
「ん?」
部活の帰り道で、先輩とも掛井とも別れたあと、おれは隣にいる端場を見ずにちらほらと見える星を見ながら端場に話しかけた。おれの声に端場は今までいじっていた携帯からおれに視線を移した。
「好きなんだけど。」
「は?何が?」
何の前触れもなく、おれがそう言うと端場は意味がわからんとでも言いたげな声を出した。
「端場が」
「…………は?」
ちらり、と横を見るとそこに端場の姿は無く、おれは後ろを振り向いた。
「は?何、おれが好きなの?」
「おう、」
おれたちは微妙な距離を保ったまま、近づこうとも離れようともしなかった。
以前、おれはホモなんだと打ち明けたことがあった。それでも部活のメンバーは驚いた顔はしたものの嫌な顔一つせず、二宮先輩の「…で?」という一言ですべてが吹っ飛んだ。
「あ、返事が欲しいわけじゃねぇんだ、ただ言いたかっただけっていうか、」
はははっ、と笑って言ってみるも端場は何を考えているのかわからない顔をした。
あぁ、しくじった。言うんじゃなかった。どんなに端場が好きでも、どんなに端場が優しくても、ノンケに告白しちゃダメだろ。
「なぁ、」
端場がぽそり、と呟いた。
「…ん?」
「なんでおれ?おれ、根暗だし、オタクだし、顔も掛井のがイケメンだろ、」
「んなことねぇ!!」
急にでかい声を出したからか、端場の目が見開いた。
「…んなことねぇよ、端場は自分の短所と向き合って、変えようってしてて、すげえ強いと思う。すげえかっこいいと思う。そんなとこに惚れたんだと思う。」
届いても届かなくても
どっちでも構わない。
おれが端場を好きなことには変わりないんだから
「おまっ…!!そういうこと何の躊躇いもなく言うなよな」
少しだけ頬を赤く染めた端場ににこりと微笑んだ。
「……本当に好きだなぁって思う」
この数ヶ月間でどれだけ好きになったことか。
端場はこんなに人を好きになったことがあるだろうか、おれは今までなかった。今までテキトーに告られたら付き合い、面倒になったら別れた。そんなおれは何でも頑張れる端場がすげぇ眩しくて、すげぇ虜になった。
「おれは、」
ぽつりと端場が呟いた。
「おれは竹本が言ったみたいなやつじゃないし、やっぱりなんでおれが好きなのかもわからねぇけど、」
どこか遠くで犬が鳴いた。
「……ってもいい」
「え?」
「付き合ってもいい、とおもった」
「ま、じ で…?」
ホモから好きとか言われて罵ったりドン引いたりせずに、告白を受け入れてもらえるなんか思ってなかったおれは、思わず手に持っていたかばんを落としてしまった。
「…リア充の気持ち、わかるかね、」
「…え、そこ?」
「いやっ、あれだあれ。…おれオタクだからリア充的なイベントもスルーしてきたし、リア充滅べ的なこと思ってたから竹本の気持ちはわからねぇけど、竹本とだったら付き合ってもいい気がした、んで…」
「うはっ!やっぱ好きだわ端場!!」
「えええっ!!!」
やっぱ端場はすごい。なんか、元気出た!
「まぁ、安心しろ!女役はおれだから!」
「なんでそいうこと言うの!?」
本気で落としにかかるから、覚悟しろよ、端場!