短編
□ツケが回って
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※最終話数ヶ月後
今まで何かに必死になったことがなかった。世界はおれを中心に回っていたし、おれが世界で一番偉かった。非リアな奴らは忌み嫌っていたし、オタクとか根暗とか論外だった。女だって、ブスは願い下げだったし、ダチだっておれと同じ考え方の奴らとしか付き合ってこなかった。まあ、ようは薄っぺらい関係しかなかったのだ。
そんなおれが、人を好きになってしまった。しかもそれは男だった。どうして男なのかはわからない。ただ、初めて「好き」だという気持ちが芽生えたのだ。
「……好きなんだけど」
「…は?」
一世一大の告白だった。心臓が口から出そうに気持ちが悪く、全身が脈打っていた。手に力を入れて握りしめた拳は奮え、バイクの爆音さえも遠くに聞こえた。何もかもが自分から遠ざかったのではないかと錯覚するほどの緊張の中、ただ一つ大きく聞こえたのが、嫌悪の篭った相手の声。
「……うわ、何言っちゃってんの?」
「え、あ」
「男云々ってのじゃなくて、お前みたいなの願い下げ」
世界がぐらりと揺れた。頭の中が真っ暗になり、相手の言葉だけがズサズサと降って来る。
「……はっ、てか村谷って男好きなんだ、…はっ、…てかさーお前知らねぇの?おれがダンス部と仲いいってさー…てかダンス部のマネ的なこともやってんだけど」
「え…」
「うっわ、その知らなかったですーみたいな顔、超ウケるわ」
ダンス部。
おれが、嫌いな、ダンス部。
今までに何度もちょっかいを出してきたダンス部。端場のいる、ダンス部。
「あ、そうそう。知らないみたいだから言っとくけどさー」
ずいっと近づいてきた好きになったはずの顔に恐怖を感じた。
「……復讐、だーいせーこー」
背筋が凍った。回らない頭でもわかる。おれは嵌められた。
「……あ、ダンス部のみんなはおれがこーんなことしてたの知らないよ?あいつらがこんなこと知ったら全力で止められるしね。」
数ヶ月前の記憶が蘇る。そうだ、こいつが、おれの前でふわりと笑うようになったのは、あの、数学の特講を受けた辺り。つまり、ダンス部といざこざがあった後らへん。
「一度くらい痛い目に合えよ。…一度くらいじゃ足りねぇな…」
押し殺した怒りを込めた目が向けられた。
―『…他人やら世の中やらナメてんなよ。……そうやってナメた態度とってる限りな、…いいことなんか何も巡ってこないんだよ。きみには』―
汗が噴き出した。
つけがまわって
きた結果。
「おれの愛するダンス部、傷つけてんなよ」
2013.7.14
ダンス部のあの子たちはいい子たちだから復讐なんかしないけど、どうしても村谷に後悔させたくて書いたお話。ダンス部を愛しすぎる、そんな男主。