ストロボ長編1/金盞花
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「あーあ、ほんっとについてねェ…」
「まあまあ、そんなに気を落とすなって」
「安堂は……!」
おれと遊びに行けなくて嫌じゃねェの?と聞こうと口を開いたが、安堂のあまり落ちていないテンションにおれは安堂から廊下へと視線を落とした
「ん?」
「やっぱいいや、」
「そう」
「てか、委員会遅くなるかなー」
「んー…どうだろうね」
その反応結構傷つくな…
実行委員の集まりのある教室に着くと、入り口に仁菜子ちゃんがいた。
「なんだ、蓮も実行委員かー」
「あ、ホントだ」
先に教室を覗き込んだ安堂がつまらなそうに呟いた後、仁菜子ちゃんがいることに気がついたのか、意地悪そうな顔をした。
「仁菜子ちゃんドンマイ…」
安堂は面白そうに蓮と仁菜子ちゃんを見比べ、ニヤニヤとしていた。そんな安堂の手を仁菜子ちゃんは引っ張っていき、自分の隣に座らせた。はっきり言っていい気はしない。
安堂の隣の席に座ると、安堂が仁菜子ちゃんに携帯のアドレスを聞きはじめた。
「安堂、嫌がってるだろー」
「えー?そんなことないよね?」
どんな笑顔でも安堂の笑顔が女の子に向かっているのを見ると、胸が締め付けられるように痛い。その痛みをごまかすように机に突っ伏した。
「和樹、先生来たぞ」
「んー」
どう頑張っても叶うことのないとわかっている想いはやめようと思ってもすぐに消える代物ではなく、逆に成長を促進させてしまう一方だった。
「こんなの嫌だな…」
呟いた言葉は誰にも拾われず、だるそうな教室の空気に溶けていった。
「これで委員会を終わります」
30分くらいしかない委員会がすごく長く感じた。
「安堂っ早く行こ!」
「はいはーい」
仁菜子ちゃんが安堂を見下ろし、トゲトゲした声でサヨウナラっと言ったのを見て安堂が不憫になった。
「安堂嫌われちゃたな」
「ははは、そうかなー?」
いつものへらへらとした笑顔を見せる安堂の頭を叩いた。
「痛っ!」
「そうやってだれそれ構わずアドレス聞くからだぞ」
「いいの、それがおれなの!」
「はいはい、その癖治せよなー」
教室に戻ると、安堂はトイレに行ってくると言って教室を出て行った。
安堂が女の子が好きなのはわかる。中学のアノ件についてもおれは知っているし、アノ件でこういう風に女遊びをするようになったなんて考えたくないけどこれが事実なのもわかってる。いつの間にか好きになっていて、いつの間にかその気持ちは膨らんでいった。前にも後ろにも行けずにおれは同じところをぐるぐる回っていることくらいわかってる。
考えに耽(ふけ)っていると教室のドアの勢いよく開く音と安堂の元気な声がした。
「和樹ーっ!!プリントもらったー」
「ん?何の?」
「委員会の」
あと、かわいこちゃんのアドレスもゲットしたーと笑う安堂から目を逸らした。
「ありがと」
「おう、じゃあ行こっか」
「ん、」
鞄に手をかけ、肩にかける。隣に立つ安堂はふわりといい匂いがした。
「シャンプー変えた?」
「お、わかる?」
さらさらとした安堂の髪に触ると、手をすり抜けていった。
「うわっさらっさら!」
「だろだろ?」
「匂いもいいな、」
「はっはっはーやっぱりよくわかってるな!和樹は!」
ニッと笑った安堂はすごくかっこよくて、すごく可愛い。
「はは、そりゃどーも」
ドキドキとした心臓を落ち着かせようと鞄を持ち直す。
「あ、和樹あれ見て」
突然立ち止まった安堂が指を差した先を見てみると女子の大群と仁菜子ちゃん
「なにあれ」
おれたちがいる窓の真下に来て何やら話しはじめた。
「ふられんぼ同盟?」
何それバカバカしい。
「あ、蓮だー、ちょっと来てみ 楽しい会合が開かれてるよー」
安堂がちょうど通りかかった蓮を捕まえると同時にふられんぼ同盟が話しはじめた。
蓮がフったことを根に持っている集団らしい。おれから言わせてみれば、告白する勇気がある人たちがこんなことをする意味がわからない。せっかく振り絞った勇気が全部無駄になるじゃないか、
「くだらないくだらないくだらないくだらないっ!!」
仁菜子ちゃんが叫んだ声でどこかへ行っていた意識が戻ってきた。
「木下仁菜子チャンかー ふーん」
外を見ていた安堂が呟いた言葉にどきりとした。なんだか嫌な予感がする。
「安堂…?」
「なんか面白そうなコだねー」
おれは未だに治まらない嫌な動悸にただただ不安を募らせるだけだった。