ストロボ長編1/金盞花
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どうしておれは安堂を好きになってしまったのだろうか。何かあるたびに傷ついて、何かあるたびに無理矢理笑顔を作った。そんな生活が何年続いただろう。毎日、毎日、好きが積もって辛い。
そして、今日は委員会がある。
「…なァ、安堂、」
「んー?」
「…委員会、サボらね?」
行きたくない。会いたくない。会わせたく、ない。だらだらと廊下を歩く足を止め、安堂を見ると、安堂は驚いたように目を見開いた。
「珍しー…サボりたいの?」
「……おう、」
「んー…駄目だろ、行こうぜ」
あ、違う。今までだったら、絶対、
「…………冗談だって!サボる気なんかさらっさらねェから!」
「なんだよもー本気にしただろー?」
「ははっ、騙されてやんのー」
「ったくもー…」
「早く行こうぜ!委員会!」
顔を髪で隠すように少しだけ俯いて、安堂の背中を強く叩いた。
「痛っ!」
安堂の数歩前を歩く。今の表情は見せるわけにはいかない。だって、今、とてつもなく胸が痛い。
―――…
「誰か、買い出し行く奴いないかー?」
委員会の先生がクラスを見渡した。誰もが、さっと目を伏せ、やりたくないというオーラを漏らしている。
「安堂、買い出し行かね?」
「えーめんどくさい」
「二人だったら楽しいって」
「それもそうかもしれねーけど……めんどくさい」
「…だよなー…」
おれは買い出しとか雑用とか、めんどくさい作業ほど楽しく思える。達成感を味わいたいからなのかもしれないが、学生でしか経験できないようなことはしておきたい。つまり安堂とは正反対。それと委員会をあまり長引かせたくない。
「全員行きたくないなら、話し合って決めてな」
先生の声に一斉に反感の声があがった。押し付け合いになることが目に見える。
「うわっ、めんどっ」
「…やっぱ、おれやろっかな」
「付き合わねーぞ」
「わかってるって」
そう。わかってる。
「あ、先生ーおれやりまーす」
「ありがとな、じゃああと一人決めろー」
結局押し付け合いになったそれをおれは少し離れたところから見ることにした。安堂も押し付け合いに参加してしまったので、暇だ。ぼうっと安堂の横顔を眺める。正直、何にこんなに安堂に惹かれているのかわからない。わからないけど、どうしようもなく好きだ。好きすぎて辛い。きっと、安堂の全部が好きなんだろうな、
「すいません、遅れました」
教室の前から入ってきたのは、言われてみればいなかった蓮と仁菜子ちゃん。二人、仲いいんだな、
「ちょうどいいや、お前ら二人とすでに決まった奴と三人で買い出しに行ってきてくれ」
「え…」
嫌だ。一瞬浮かんだそれを振り切るように一度目を閉じた。
蓮のもとに「おれがその一人」とニッと笑うと、蓮も微かに笑った。
「あ、すでに決まった奴って和樹だったんだ」
「おう、」
「じゃあ三人で行こうか。楽しそうだし」
「面白そうだよねっ!だから俺も行く!」
頭上からした声は紛れもなく、安堂の声で。
「和樹もいるし!な!」
「……はは、そう、だな、」
ズクン…と胸が痛い。この子だ。仁菜子ちゃんがいるからだ。おれがいるからじゃない。安堂の行動の理由は、おれじゃ、ない。
「和樹?」
蓮の声に、自分が少し俯いていたことに気がついた。
「どうかした?」
「や、…なんでもない、」
目を閉じて短く息を吐いた。冷えた両手で両頬を叩くと、目を開けた。
「へーき」
いつものように、ニッと笑ってみせる。ちゃんと、笑えてるだろ?この気持ちを抱えて、何年だと思う?…これくらい、平気。
「そ、」
「ん。」
それから日程は安堂が無理を言って水曜日になった。水曜日はどうしても外せない用事が入っていた。結果的に、おれ以外の三人が買い出しに行くことになった。また、どうしようもなく不安が襲った。