ストロボ長編1/金盞花
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嫌な予感ほどよく当たる。
それは何にしてもそうじゃないだろうか。例えばテストの結果だったり、本の結末だったり、人間関係だったり、あげればきりがない。
「おれ、好きな子できちゃったかも」
「え…」
ほら、嫌な予感ほどよく当たる。
急にそう言った安堂をおれはただ見ることしかできなかった。何を言ってんだ、好きな子できた…?
「仁菜子ちゃんのこと、」
目の前が真っ暗になる。今まで適当に遊んできた安堂が、恋愛…?
「まじで?」
「まじで」
今まで安堂が好きでもずっと頑張ってこれたのは安堂が適当にしか女の子たちと付き合ってこなかったから。だからおれはまだ頑張れたし、我慢できた。でも、これが本気の恋だったら?ただでさえおれは男で安堂と両思いになんてなれる確率なんてゼロに近い。でも、少しだけ、可能性があると信じてた。その可能性も安堂に好きな子ができたら無くなってしまうじゃないか。
「電話帳もほとんど消しちゃった。和樹と仁菜子ちゃんしか残ってない」
「……へぇ、」
「今回は頑張りたいなって」
「そっか、……頑張れよ」
「おう!」
安堂は屈折のない笑顔をおれに向けた。ズキズキと胸が痛い。ジクジクと胸が痛む。おれは普通の友達として普通に笑えて言えただろうか。普通にすることに傷つきながらこれからは安堂の隣にずっといなきゃいけないのだろうか。
今日は木曜日。委員会がある日。おれの嫌いな、委員会がある日。
――――…
「あー!喉渇いた!」
外での作業で、集中力も切れてきた頃、おれは地面に寝転がった。釘を打つ作業は地味に疲れる。
「よし、おれが二人にジュースを買ってきてやる!」
「まじで!和樹やっさしー!」
「ありがとう」
「じゃ、作業よろしくー」
二人の好みはわかる。それくらい、おれたちは同じ時間を共有した。
「安堂、本気なのかなー…」
コツン、と上靴に石が当たった。
「…本気、なんだろうなー…」
空を見上げると、澄み切った青をしていた。
「ははっ……笑えねぇー…」
本当に笑えない。でも、諦める気もない。
「早いとこジュース、買っていこ、」
この胸の痛みを振り切るように、おれは自動販売機まで全力で走った。
――――…
そっと近づいて後ろから驚かそうと思った。だから、足音を殺してゆっくりと近づいていた。それが、間違いだったのか、それともおれが自動販売機に行ったのが間違いだったのか。
安堂が仁菜子ちゃんにキスをする現場に遭遇した。鈍い音をたてて、手からカンが落ちた。おれだけ、時間が止まったようだった。逃げ出した仁菜子ちゃんを追う安堂の背中が見える。どうして、どうして、
「笑えねぇ…」
ぽつりと呟いた声は情けなく掠れていた。