海賊長編6/隣

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「お兄ちゃん帰ろーっ!!」

おれは今、香介くんの保育園に来ている。先生とも顔を合わせ、世間話をしていると、香介くんが満面の笑みで走ってきた。

「うん、じゃあ手繋ごっか」

「うん!!」

手を繋ぐと小さい子特有のふにふにとして少し湿っている手だった。…かわいいなァ、

「いつも夕ごはんはどうしてるの?」

「えっとね、お父さんが帰ってきてから食べるよっ!」

サンジさんは9時過ぎには帰ってくるって言ってたな…

「じゃあ今日はおれが作っちゃおうかな!」

「やったぁー!」

「じゃあ今日はカレーにしよっか!」

「カレー大好き!」






………という話をしたのが約2時間前。そしてただいま絶望中。

「えっ…と…」

あ、一つだけ言わせておいてほしい。おれが包丁を握ったのは中学の家庭科以来初めてです。そしてその時作ったのがカレーでした。覚えてるかなーって高をくくってました。確かそんなに難しくなかったなー…と、思ったわけですが…

「お兄ちゃん…これ、なに…?」

「……………カレーだよ」

おれたち二人の前にあるのは得体の知れない、食べたら死ぬんじゃねェの?と思うような代物だった。誰だ、理系は料理ができるとかほざいたやつは…!

「…………食べれるの?」

「…きっと食べられないよ、どんな化学変化が起こったんだろうね…」

そう、どんな化学変化が起こったらこんなものができるのか誰か教えてほしい。

「…香介くん、ピザ食べれる?」

「うん!」

「ちょっと待っててね、すぐに電話するから」

これは精神的なショックがハンパない。おれは自分をもっと出来る子だと思ってたよ、…サンジさん、すごいな…コックさんか…







ピザを食べ終え、香介くんと絵を描いて遊んでいると、家のチャイムが鳴った。

「ナカタニくん、悪ィな、遅くなった。…あれ、飯食ったのか」

「サンジさん、お帰りなさい。あー…はい、出前のピザですけど…」

最早苦笑いしか出てこない。

「お父さん!お兄ちゃんね、カレー作ったんだけどね、」

「わああああ!ちょ、言わなくていいよ!」

香介くんはサンジさんに飛びつきながらとんでもないことをサンジさんに言いはじめた。好きな人には少しでもいいとこを知ってほしいわけで、こんな精神的に傷つきまくったあとに、好きな人にも人生最大とも言っていいほどのミスを知られるわけにはいかない。

「えー…でも真っ黒だったよね!」

「……………」

口止めしたのに結局言っちゃうのね、

「……もしかして、あの鍋がそう?」

「あ、ははは…」

「見てもいいか?」

「…覚悟して見てくださいね」

サンジさんは恐る恐る鍋の蓋を開けると、そのまま固まってしまった。

「あの…サンジさん…?」

「…何をどうしたらこうなる…」

深い深いため息を漏らしながら言ってくるサンジさんに、おれはいたたまれない気持ちになった。

「これから飯、どうしよ…」

これからの生活が一気に不安になった。

「…今日の礼も兼ねて、明日から夕食うちで食うか?」

「え…」

サンジさんを見ると、居心地悪そうに手を首に引っ掛けていた。

「まァ、これからも香介のことを頼むだろうし、香介も楽しかったみたいだし。夜遅くなってもいいならだけどな」

毎日サンジさんの飯が食える…?しかも一緒にいられる時間が増える…!

「いいんですか!」

おれは嬉しくて、サンジさんの腕を掴んでいた。

「あ、あァ…いいけど…」

「うわっまじか!ありがとうございます!お願いします!」

サンジさんを見ると、ふっ…と笑っていて、その笑顔におれの心臓が一回大きく跳ねた。




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