海賊長編6/隣
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「サンジさーん!これってここに盛りつけるんですか?」
「あァ、優しくおけば見栄えもよくなるから」
あの元カレ事件があってからハルトはおれたちの家に来る頻度が上がった。つまりこうやって交流は続いているわけだが、おれたちの間には少し変化が生まれた。一つは料理を一緒に作るようになったということだ。理系の学部に行っているからかやたらと数字にこだわるのだが、目分量も大切だ。これは実験じゃねェと何回言ったかわからない。
「おおっ!今日も美味そう…!!さすが!!」
「美味そう、じゃねェぞ、美味いだ」
「ははっ、確かに!!」
二つ目は、前よりも話しやすくなった。以前は慎重な様子が見えたハルトはナチュラルになった。隠し事がなくなったからだろうか、こちらとしても嬉しい限りだ。
「よし、ダイニングテーブルに運んでくれ」
「はいはーい」
軽やかな足取りで料理を運んでいくハルトを見送りながら、デザートを冷蔵庫に入れた。
「香介!メシだぞ」
「はぁーい!」
「じゃあ、おれと手、洗いに行こうか!」
「うん!!」
元気よく片手を上げて返事をした香介の手をハルトが引いて行った。その後ろ姿は歳の離れた兄弟に見える。
子供が好きなのか、歳の離れた兄弟がいるのかは知らないが、ハルトの香介の扱いは慣れたものだった。ハルトはすごくいい奴だ。
食事も終わり、三人で並んでテレビを見ていた。香介は途中まではしゃいでいたが、遊び疲れたのかハルトの膝の上でうつらうつらとし始めた。ハルトはおれの顔を見るとにこりと微笑んだ。そして口パクで「かわいい」と言った。そんなハルトにおれはいつも感じない何かを感じたが、それが何かわからなかった。そんな気持ちを沈めるために香介を抱き抱えると寝室へと連れていった。
リビングに戻る際、ビールを持って行った。ビールを傾け、ハルトに見せると嬉しそうに笑った。
今見ているテレビには最近流行りのイケメン俳優と称される俳優が三人出ている。トーク番組で、趣味など当たり障りのない情報をペラペラと話している。
「この俳優さん、かっこいい…」
ハルトはうっとりとした視線をテレビに向けている。こういうとき、本当にホモなんだと実感する。普段の態度では全く連想できない。
「…こういうのがタイプなのか?」
自分で言った言葉にもやもやとした感情が自分に広がっていくのがわかった。
「んー…タイプっていうか、かっこいいものはかっこいいって感じ…?サンジさんはかなりのイケメン」
熱っぽい視線を送られ、どうしていいかわからずにビールを口に運んだ。
「…そりゃどうも」
「ははっ、照れてる?」
ハルトは悪戯っ子のような笑顔で身を乗り出して来る。
「照れてねェ」
おれはハルトの額に人差し指でトンと押した。
ハルトの頬は赤く染まっている。
「サンジさん照れてるだろ」
「照れる要素がどこにあるんだよ、全部事実だろ、」
「うわっ!めちゃくちゃ自信あるよこの人」
ハルトは男特有の色気をだし、おれに近づいて来る。それにしても、いつもと何か違う。
おかしい。…もしかして、
「…酔っ払いか」
「えー?んなことねェよー」
なんでいつもの口調と違うことで気づかなかったのだろうか。こいつは酔っ払っている。
「酒、弱いなら言えよ」
「えー飲みたかったし」
リモコンを持ち、次から次へとチャンネルを変えていくハルトの手からリモコンを取り返し、ふと疑問が湧いた。
「なァ、なんでハルトは子供の扱いが上手いんだ?」
ハルトは少し驚いた顔をしたあと、切なげに笑った。
「子供が好きってのと、おれには一生子供ができないって考えると大切に扱っちゃうのかなァ」
…あァ、また忘れていた。
こいつはホモだった。