海賊長編7/不良

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この間新しく買った音楽機器を扱い、靴の底が擦り減るような歩き方をしながら家に帰っていた。すると、目の端にガラの悪い奴らが見えた。絡まれるとめんどくせェ。さっさと行こうと思ったのだが、もう遅かった。顔を上げるともう囲まれた後だった。

「チッ…」

おれはせっかく買った音楽機器を鞄の中に入れ、ガンを飛ばした。

「…どけよ」

囲んでいる奴らに一通り睨みを効かせると見たことのある顔がおれの前に悠々と歩いてきた。

「…テメェか」

そいつは狂鬼という二つ名を持つ何度も喧嘩をしてきた奴だった。事あるごとにおれに絡んで来る。引っ越したここに来ているのは些か不思議だが、んなことおれには関係ねェ。

「帰宅か野崎?」

「わかってんならどけ」

「お前、自分の立場わかってんなこと言ってんのか?」

「あ?」

「囲まれてんのわかってんだろ」

んなことわかってる。数では圧倒的におれが不利だ。しかし、負ける気はさらさらしねェ。

「わかってんに決まってんだろ、バカじゃねェからな」

「いつまでその強気な態度でいれるか見物だな」

「あ゙?」

狂鬼の胸グラを掴もうとした瞬間、脇腹に鈍い感覚があった。

「ぐは…っ」

狂鬼が一瞬バランスを失ったおれの胸グラを掴んだ。

「とっくの昔に喧嘩は始まってんだよ」

「クソっ」

狂鬼に蹴りを入れようとしたが、タイミングが合わず避けられた。

周りが一気に飛び掛かってきた。囲まれていると分が悪い。攻撃が一歩遅れた。

「うおおぉぉおおお!!!!!」

叫び声を上げ、周りの雑魚共に蹴りやパンチを入れる。雑魚共と少しでも距離が取れるとおれが有利になる。明らかにおれのほうが強いんだから。

「こっの野郎っ!!」

目の前の奴の鳩尾(みぞおち)にパンチを入れる。綺麗に決まって目の前の奴は崩れ落ちた。

よし…!

そいつを踏み潰して囲まれていた場所から脱出した。

「攻守逆転」

おれはそう呟くとまた雑魚共と戦い始めた。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」

思った以上に数がいた。まだ相手には無傷な雑魚が十人はいる。

「クソっ!」

道路に倒れ込んでいるのは二十人くらいだ。次から次へと加勢にくる雑魚におれは手こずっていた。もう、おれの体が持たない。狂鬼はおれの様子を見て、ニヤニヤとしている。

「コクビョウの二つ名をもつ奴が情けねェなァ」

「うっせェ!!」

『コクビョウ』は『酷猫』又は『黒猫』と書くらしい。猫なんてあまり強いイメージがないのでいやなのだが、ライオンも豹も猫だからまぁいい。なんで猫かというと、ふらりと現れ、喧嘩のあとは何事も無かったかのようにふらりといなくなるから、らしい。『酷』はわかる。ひどい、むごいだから意味は通る。黒はわからない。おれの髪は茶色だからな。


クソ、やべェ。今の状態でもかなりきつい。それなのにまだあの狂鬼がいる。今のおれが狂鬼と喧嘩するのはあまりに無謀だ。逃げるという選択肢はない。そんなプライドを捨てたようなことはしない。一度喧嘩を始めれば倒れるまでやってやる。おれは、逃げねェ!!!

「来いよ」

おれは挑発するように手招きをした。まぁ、これはいつも喧嘩のときに使っている言葉なのだが。

一斉に雑魚が飛び掛かってきた。おれは大きく雄叫びをあげて、迎え来る雑魚に殴り掛かった。



「野崎ー残念だったなァ」

「クソっ!離せゴラァ!」

おれはコンクリート塀に押さえ付けられてしまった。狂鬼はおれの髪を掴んで無理矢理上を向かせる。

「コクビョウのくせに、なァ!」

「ぐあっ…!!」

狂鬼は最後の言葉を言うと同時におれの顔を膝で蹴った。たらりと鼻から血が出てきた。

「クソっ!!!」

ニヤニヤとした顔がおれを見ている。クソ、今すぐにでも殴り掛かりたいが力が出ない。

「なんだその生意気な顔は?もう一度蹴られてェのか?」

寄ってきた顔に思わず顔をしかめた。やべェ、な。


「おい、警察呼んだぞ」

突然、サンジの声が聞こえた。

「テメェ、何してくれてんだゴラァ!!」

「もう警察来るぞ」

サンジは携帯をひらひらと見せながらニヤリと笑った。

「チッ、ずらかるぞ!」

「はい!!」

顔色を変えた狂鬼はあっさりと逃げていった。

「おい、大丈夫か」

おれはサンジから差し出された手には捕まらず、自力で立ち上がった。

「余計な真似、してくれてんじゃねェよ」

「あ?余計な真似じゃなかっただろうが」

おれはサンジに向かって舌打ちをすると、放り投げた鞄を持ち上げた。

「…テメェにだけは助けられたくなかったよ」

おれは鞄から音楽機器を取り出そうと鞄の中に手を突っ込んだ。

「もしかしてよ、お前まだあのこと根に持ってんのか?」

ドクン、と心臓が跳ねた。あのボロボロにフラれた日のことが脳裏をかすめた。

まだ…?

「もう何年前の話だよ、お前さ、それで」

「うるせェ!!!!!!!!」

何食わぬ顔でペラペラと話すサンジにカッとなった。もう、止められない程には。

「テメェには『まだ』とか言えるぐれェとっくの昔に終わったことかも知れねェけどなァ!!!」

強く握りしめた拳がカタカタと震える。

「おれにはまだ、『まだ』なんて言えねェくらいに終わってねェんだよ!!!!」

あの言葉でどれほど傷ついたと思ってんだ。どれほど悩んだと思ってんだ。どれほど荒れたと思ってんだ。どれほど泣いたと思ってんだ!!!!

「おれの前に一生現れんなクソったれ!!!!」

おれは一方的に言い切ると、きつい体を奮い立たせて走った。後ろでサンジの声が聞こえる。おれがどんだけテメェのことを好きだったと思ってんだ…!!どんだけ毎日苦しかったと思ってんだ!!!!確かに男から告白されて気持ち悪かったと思う。だけどよ、あんな言い方しなくても良かったじゃねェか。サンジだから告ったのに。告っても友達でいられると思って告ったのに。突き付けられた現実はあまりに残酷だった。

「クソ…!!あんな最低な奴なんか、大っ嫌いだ…!!」

ふと立ち止まった場所は中学のとき、みんなでだべった公園の前だった。

「あー…クソ」

おれは空を見上げて指で目を押さえ付けた。




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