青祓長編1/蛍
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どうやら被害者は一人らしく、そこまで重傷ではないらしい。その悪魔は攻撃せずにゆらゆらとおびき出すかの如く、さ迷っているそうだ。何故このような抽象的な言い回しをしているのかというと、はっきりと姿を見せないらしいので、柔造さんから言われた情報もあやふやなのだ。姿がはっきりと見えないということはゴーストだとは思うが、如何せん見ていないためわからない。
「颯太何持っとるんやったっけ?」
「称号?おれは、竜騎士と医工騎士!」
「手騎士になりたい言いよらんかったか?」
「そうなんだよ!猫又が欲しい!」
走りながらの会話は、なぜか半ば叫びながらの会話になった。おれはこう見えて、猫好きなのだ。
「猫又なぁ、そう上手くはいかんからなぁ」
「まあな!金造!あとどれくらい!」
「もう少しや!」
なぜ、ゴーストごときに祓魔と警邏の二番隊を出動させなければいけないかがわからない。そんなにタチの悪そうなゴーストでもなさそうなのに。おれの起用はおれの力量を計るためだろう。向こうのほうでゆらゆらと揺れるゴーストが見えた。
ゴーストと少し距離を置き、みんなが錫杖を構える中、おれは銃を構えた。腰にはもう一丁、銃が掛かっている。ゆらゆらと揺れ動くゴーストは、祓魔師を舐めるように見渡し、舌なめずりをした。降参するように両手を挙げていたが、おれと目が合った瞬間、ニヤリと笑った。
『見ーつっけたーっ』
「!?」
一見、弱そうに見えたゴーストが急に目の前からいなくなった。
『あの人が呼んでるよ、あの人が呼んでるよ、』
囁くような声が耳元で聞こえた。慌てて後ろ向きに銃を向けると二発撃ち込む。ゴーストはそれをひらりと躱してもう一度、ニヤリと笑った。
あの人、って誰だ…?
「颯太!何しよるんや!」
金造の声に構えていたはずの銃が下を向いていることに気がついた。
「悪ィ…!」
それにしても詠唱が聞こえない。おれ一人で戦っているみたいだ。
………柔造さん、か
『あの人って誰かわかる?わかるよね、あの人。あの悪魔。あの人。あの悪魔』
おれは今、京都出張所に抜き打ちテストをされてるわけだ。手間取るわけにはいかない。ひらひらとゆらゆらと躱すゴーストをしっかりと見た。頭を狙おう。そして、おれは引き金を引いた。
「危なっかしいなぁ」
「…悪ィ、」
金造が後ろから錫杖で頭を軽く叩いた。そこまで強く叩かれたわけではないのだが、何故か痛みが留まった。
「……何か言われとったやろ、」
「え…」
「…動き、固まっとったで」
「あー…まあ、な」
「…まあええわ。柔兄がおらんでよかったな。一発どつかれとったで」
「…悪ィ、」
やっちまった。抜き打ちテストだったら確実に評価が低くなったはずだ。『あの人』と言っていた。『あの人』って誰だ。まさか、
「颯太!」
「うおっ、なんだよ驚かすなよ」
「帰ったら柔兄んとこ寄ってけって電話あったで」
「…………おう、」
さっそく、説教されるようです。