振り長編1/全力
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いいこと聞いた、ふはっ、いいこと、聞いた。あんなにかっこよくて男らしい阿部に彼女がいないなんて、信じらんねぇけど、クソ嬉しい。
おれは、阿部のことを想像以上に好きなのかもしれない。いや、わかんねぇけど!なんか、すげぇ、グワッと嬉しかった。なんか、こう、内側からグワアアッと嬉しかった。阿部とキスとか出来たら、幸せでぶっ飛んじまうかもな。・・・・・ま、ありえねーけど!想像くらい!いいよな!
岳は、それなりに整った容姿のせいで女遊びが激しいと思われる傾向にあった。来るもの拒まず、去るもの追わず。要するに取っ替え引っ替えしていると思われているし、噂にもなっている。しかし、実際は真逆で、岳は女の子と付き合う以前に話すことすらままならないのだ。異性に触れたことなんて、幼稚園のナントカちゃんと手を繋いだとき以来ないのだ。
「田辺、行くぞ!」
掃除当番のために椅子を教室の後ろまで下げているとき、阿部が叫んだ。グラウンドで叫んでいる分、よく通る。教室を何となく見ていた岳は、ふと、阿部に視線を寄越し、ひゅっと喉が鳴った。阿部がダラダラと下げている岳を教室の入口に寄り掛かりながら見ていたのだ。その姿があまりにもかっこよく目に映った。一瞬、体の動きが止まった岳は、慌てて視線をそらして机を下げることに専念した。ああ、クソ、惚れた弱みかよ
冷静を装い、阿部に駆け寄る。おれを待ってくれたことが嬉しかった。もしかしたら、二人きりかもしれないと、口元がモゴモゴと動いてしまった。パッと顔を上げると、廊下には花井と水谷が。
「なんで睨むの?!?!」
「・・・・別に」
ああクソ、期待した分、ガッカリしたじゃねーかよ。
「ほら、さっさと行くぞ」
阿部は焦れったそうに岳の頭を前へ押し出すように引き寄せた。岳は、一瞬のうちに体を熱くさせ、小さく俯いた。
「・・・おう、」
耳どころか、首の後ろまで赤くなっているのを見た者はいなかった。
――――・・・
「・・・田辺、なんで睨んでんの?」
「あ゙あん?!」
聞き慣れない声に凄みながら振り向くと、引き攣った顔をした茶髪で短髪のヤツが片手を上げて立っていた。穏やかな声がムカつく。今、そんな声で話されたって余計イライラするだけだっつーの!
そして岳は、イライラと今まで見ていた光景に視線を戻した。
「みーはーしー!!!お前なぁあああ!!!」
「ごっ、めんっなさぃぃいいい!!!」
なんなんだよあいつ!!いっつもいっつも阿部に構われやがって!!!おれだって!!おれだって!!構われ・・・っいや、話してぇっんだよ!!なのに、あいつは・・・!!!
「田辺ー三橋がかわいそうだぞー」
「あ゙ァ?!どこが!!」
それよか、おれの方が!!
「だってほら、三橋見てみ?」
岳が、栄口が指さした方向を見ると、三橋は「ひぃぃぃいっ」と変な声を上げて、震え上がった。岳は、不可解そうに顔をしかめると、栄口に向き合った。
「・・・・なにアレ」
「田辺が睨んでるからじゃない?」
「・・・しょーがねぇだろ。あいつが悪い」
岳がぶすっとしながら小さく呟くと、栄口は呆然とした。え?なに?これって?
不良だって嫉妬する
嫉妬・・・?
栄口は、密かに(でもわかりやすく)しょんぼりとした田辺に目を疑った。え?ホントに?
「・・・田辺って、阿部が好きなの?」
栄口が半信半疑で呟いた言葉に岳は弾かれたように顔を上げた。その顔は真っ赤になっていた。
「ばっ・・・!!!違ぇよ!!!!!」
え?なにこの反応?なんで顔が真っ赤なの?え?田辺って?え?そうなの?
「それって・・・」
「なんだよ!?」
「友達・・・として・・・?」
「ふぁっ?!あっ、あっ」
「(ふぁ?)あ?」
「あったりめーだろうが!!!!!」
えー・・・わかりやすー・・・・
栄口は、今なら阿部が怖くないって言った意味がわかるなーと頭の隅でボンヤリと考えながら、真っ赤っかになった野球部のヤンキーをボンヤリと眺めていた。
修正:2015.8.13