振り長編1/全力
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「田辺ー!!」
岳は、背後から聞こえた聞き飽きた声にウンザリとした顔をした。振り返ると面倒なことがわかっていたため、球拾いが忙しいふりをして無視をすることする。
「田辺ーっ!!無視するなよー田辺ー!」
「・・・・るっせぇ!!!なんだよ!!」
「やっとこっち向いたー」
最近、水谷が面倒で面倒で仕方がない。ただでさえ、栄口に阿部への気持ちがバレて大変だというのに、水谷までコレだ。ああクソ!めんどくせェ・・・!!
確かに、喧嘩のときの対応は感謝している。病院にも立ち会ってくれたし、警察にも証言してくれた。医者の話しも一緒に聞いてくれたし(コンクリートで切った肩を五針縫った)、学校に先に行けと言っても付き添ってくれた。警察からは本当に一方的にボコボコにされていただけなのかをしつこく聞かれ、おれはおれが何を言っても信じてもらえないことは分かりきっていたため、警察に信じてもらうことを半ば諦めていたのだ。確かに人を殴って出来る痣はなかったため、信憑性はあるはずなのに、だ。水谷は、見ていたことを丁寧に説明してくれた。何度も何度も同じことを聞く警察に何度も何度も説明してくれた。その度に「君、脅されてるんじゃないの?」と言う警察に「オレ達、友達ですから」と言ってくれた。「友達」という言葉を初めて言われたおれは、むず痒いような、恥ずかしいような、照れ臭いような気持ちが混ざり合ったような気持ちが身体を巡ったのだ。ただ、ひたすら嬉しかった。確かに、そう、確かに嬉しかった。
だからといって、それとこれとが同じになるわけじゃない。別物だろ?
「おれは忙しいんだよ、見て分かんねェのかよ」
「だって忙しそうじゃないじゃんか」
「あ゙?」
ついこの間まで、あんなにビクビクとしていたというのにこの変わり様はどういうことだ。岳は、顔に力を入れて凄むように声を地に這わせた。
「そんな顔しても怖くないからな!」
「・・・・・めんどくせェ・・・・・」
してやったり顔の水谷に思わずため息をつき、助けを求めるように阿部に視線を向けた。珍しくバチンと視線が合った岳と阿部は、互いに目を逸らすに逸らせずにいた。岳はむず痒いような気持ちを片手に阿部に駆け寄った。
「懐かれたな」
「どうにかしろよ、あいつ うぜェんだよ」
顔をしかめてみせた岳は、どこか満更でない様であった。実際、ウザいウザいと言いながらもそんなことはこれっぽっちしか思っていないのだ。まあ、少しは思っているのが岳らしいのだが。そんな岳の後ろから水谷が駆け寄った。
「あー!阿部にばっか懐いてやんのー」
唇を突き出してイジケてみせる水谷に岳は吐き出すように「あのなぁ・・・」と呆れ顔を見せた。そんな岳に栄口と泉が近付いた。
「何なに?何の話?」
「・・・栄口が入るとまためんどくせェ・・・」
「水谷、何の話してんだ?」
「ん?田辺が阿部にばっか懐いてるって話」
・・・おい、この状況は何なんだよ。あんなに遠巻きに見ているだけだったのに、どうして打ち解けはじめてるんだよ。おれの絶対的な威厳はどこに行った。
「阿部・・・まじで、どうにかしろよ・・・」
「・・・田辺が怖くねェってわかったんだから良かったんじゃねェ?」
「よくねェよ!!」
噛み付くように阿部の腕を掴むと、視界の端で栄口がニタニタとしていた。やべっ、と手を離すと阿部が怪訝な顔をしていた。
「・・・どうした?」
「いや、なんでもねェよ」
クソ・・・!!やりづれェ・・・!!
「確かに田辺って 阿部に懐いてるよな」
「そばかすは黙ってろ!!」
「田辺、こいつ泉ね。いーずーみ、」
栄口が呆れた顔をして泉を指差しながら岳の肩に手を乗せた。一方、そばかす呼びされた泉は水谷に「・・・オレ、そばかすって呼ばれてんの?」と少々ショック気味に零し、水谷はそんな泉に「オレは茶髪って言われてたよー」と返していた。岳は、そんな水谷に軽くパンチを入れて ため息をついた。
「いったぁー・・・もー この間友達だって言ったら、顔を赤くして喜んでたくせに・・・」
「ばっ・・・!!」
あーくそっ、また顔が熱くなった。
「うわ、真っ赤」
「うっせェ!!」
不良だって赤くなる
岳は、恥ずかしさで水気を帯びた目で阿部を見上げた。赤い顔に潤んだ目で自然と上目遣いをされた阿部は「うっ、」と不自然な声を上げた。
「・・・・・んだよ、」
「・・・・いや、なんでもねェ」
二人の間で流れた変な空気に岳は 何だか首の後ろがむず痒かった。首の後ろに手をあて、どうしようかと視線をさ迷わせているとニタニタとした栄口と、ポカンとした泉と、ニコニコとした水谷が二人を見守っていた。
「・・・んだよ」
「いや?別に?」
岳は取り敢えず、ニタニタ笑いを深くさせた栄口に軽く蹴りを入れた。
修正:2015.8.24