振り長編1/全力

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「田辺ってさ、最初っから『そう』なの?」

部活後の帰り道、栄口は田辺に耳打ちした。意味が分からない田辺は栄口に「はァ?」と顔をしかめた。

「意味わかんねェ」

「ほら、阿部をさぁ」

「あ!!バッカ!!」

「うわ、ビックリした。言わないよこんなとこで」

「・・・ならいいけど」

少しだけぶすっとした田辺を栄口は小さく笑った。暗い中でも分かるくらい顔が赤くなっている。こんなにすぐに真っ赤になるのって不便だろうなァと栄口は頭の隅で考えていた。

「で?結局どーなの?」

「んーわかんね」

「あ、じゃあもしかして、初恋中?」

「はァ!?!?ちげーし!!!」

「あ、そうなんだーへぇ〜ふぅ〜ん」

わかりやすいなあとニヤニヤとする栄口に田辺はキッと睨みつけて舌打ちをした。

「クッソ!腹立つ!!」

プイッとそっぽを向いた田辺に栄口はニヤニヤとした。ヤンキーっぽい髪型とか服装(制服もどき)とかをやめたらモテそうなのになぁと栄口は田辺の隠しきれていない真っ赤な横顔を盗み見た。

「何がそうなんだ?」

そんな二人の間に前から阿部が割り込んできた。興味なさそうな顔をしながらもチラリと田辺を見る阿部に 栄口は「ん?」と小さく首を傾げた。

「なっ!何でもねェっ!!」

「・・・ふーん」

あれ?なんか阿部、不機嫌じゃない?栄口は、「おもしろくない」と分かりやすく書いてある阿部の顔を興味深そうに眺めた。これは、もしかしてのもしかしてとか?・・・うーん、そこは良くわかんないけど、取りあえずここは助け船を出してやらないとだな、

「おにぎりを上手に作る練習してるの?って話し」

栄口は咄嗟に話しをでっちあげた。確かに最初の頃と比べたらおにぎりの大きさも具の入れ方も上手になっている。今では篠岡と田辺のどっちが握った物か分からないくらいには上達したのだ。もしかして、練習してるのか?とは前から思っていたことだから、この際便乗して聞いちゃえ、と栄口はにっこり笑った。

「あー、確かにうまくなったよな」

「・・・ま、あんくらいフツーだろ」

阿部に褒められた田辺は、少しだけ嬉しそうに鼻の頭をかいた。

「は?良く言うよ。最初に持ってきたお前のおにぎり、こーんなだったぞ」

「はァ?!そんなデカくねーし!!」

多少大袈裟な身振りで田辺をからかう阿部は、少し、いや結構楽しそうだ。まあ、田辺がすぐに真っ赤な顔をして自分の方を見ると結構気分がいいのだから仕方ない。

「はー?デカかったよな?」

それにしても阿部も田辺も「は?」が多いなあと栄口は小さく苦笑して口を開いた。

「うん、結構大きかったよ」

「うっ、」

「ほらな」

ふふんと勝ち誇った顔をした阿部を田辺はキッと睨みつけた。あーあーそんな顔するからもっとからかわれるのに・・・

「でさ、実際はどーなの?実は家で練習とかしちゃってる?」

「はァ!?別にどっちでもいいだろ!!」

「あ、してるんだ」

「・・・・・・まあ、ちょっとは・・・・・・」

練習することはそんなに恥ずかしいことじゃないのに、田辺は目茶苦茶ハズカシイって顔で視線を行ったり来たりさせている。すごくわかりやすいけど、少しでも素直に話せたら楽だろうなと栄口は真っ赤な顔をしている田辺をボンヤリと眺めた。

「ふーん、いいことじゃん」

「は?」

――え?

「だっていいことだろ、何かが上達するってことは。現にお前のおにぎり、皆うめーって言って食ってんだし。ま、練習してっことはワザワザ自慢することじゃねーけど、そんな恥ずかしそうにしなくてもいいんじゃね?少なくともオレたちはおにぎり握ってくれてありがてぇって思ってるし。」

阿部は真っすぐ前を見ながら、さらりと言い放った。そんな阿部を栄口と田辺は唖然と見つめた。そして田辺は、時間差でジワジワと赤くなりながら、嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに「・・・おう」と笑みを零した。そんな田辺を見た阿部と栄口は、何とも言えない恥ずかしさが襲い掛かり、ぎこちなく視線をそらした。

栄口は、意外だなーと心の中で呟いた。阿部が田辺にあんなことを言うとは少しも思っていなかった。田辺も阿部から言われたからあんなに嬉しそうにしたわけだし、なんか想像以上に上手くいっちゃったりするかもだぞ?!田辺と阿部って端から見てもなーんか雰囲気が違うし、田辺は阿部のこと大好きだし、阿部は話しに割り込んできたりするし・・・・これはマジで もしかしてもしかしちゃうかもだぞ?!と栄口は一人で想像して一人で顔を赤くさせた。

「そーいやさ、なんでヤンキーになったんだ?お前、ヤンキーっぽくないじゃん」

「あ!それオレも思ってた!」

ふと零れた阿部の疑問に栄口は食いついた。「言いたくないなら言わなくてもいいから」と言った栄口に岳は「別に言いたかねーことはねェけど・・・・」と零すと、話しにくそうに口を開いた。

「なんかフツー過ぎんだよな。特に大した理由もねェし。ぜんっぜん面白くねーけど」

「別に面白いこと期待してねェから」

あ!また阿部は余計なことを!と栄口が心の中で慌てていると、「そーかよ」と何も気にする様子のない田辺がまた口を開いた。すっかり落ち込むと思ったのは気のせいだったな。

「中学が分かりやすくヤンキー校でさ、朱に交われば赤くなるって言うだろ?そんな感じでヤンキーっぽくなって、金髪に染めたりしてたらケンカ吹っかけられるようになってよ。そのケンカ全部買ってたら、なんか勝ちまくって噂流れてーみたいな感じか?ま、そんなんだから友達出来ねーし、親には泣かれるしでまーこうなったわけ」

「一匹狼?」

「かっこよく言えばそうだろうけど、ただ単におれが集団に馴染めなかっただけ。おれもそれでいいと思ったし」

「じゃあなんで西浦に入ったんだ?ヤンキー校の奴らって中卒多いだろ。そのまま就職したりさ」

「あー別にやりてぇ仕事もねェし、ニートとかフリーターとかは嫌だったから高校入っただけ。あと同じ中学から西浦行くヤツいなかったし、西浦にはヤンキーいねぇから」

面白い面白くないは別として、西浦を選んだ理由は人それぞれなんだなぁと栄口は心の中で呟いた。同中の奴らがいない高校を選んだってことは、中学ではそうとう孤立していたのか?そうでないにしろ、中学はきっと楽しくなかったんだな。だから、ささやかなコトでもあんなに楽しそうに嬉しそうにするんだろう。そんで野球部に入ったことがキッカケで、たくさん楽しいことが増えたんだったら結構嬉しいぞ!


不良だって理由がある


何にせよ、西浦来て野球部入ったからには、田辺も楽しい高校生活送れるといいな、と栄口は楽しそうに談笑している二人をこっそりと見て小さく笑った。




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