忍たま長編1/勿忘草
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なんでだろうか、おれを見る潮江の目は誰の目よりも暖かく、優しく感じる。おれを知っていると言ったあいつらの誰よりも、母親や父親よりも、どんな奴の目よりも安心する目をしていた。明らかに友達を見る目ではなかった。愛しい、愛する者を見る目だった。潮江は男だ。そしておれも男だ。男が男に向ける目ではない。なのに、それが少しも嫌だと思ったことがなかった。なぜだかわからない。ただ、それが嬉しく思ったりもしてしまうのだ。
「潮江ー」
「なんだ?」
「潮江ってさ、小さい頃、何に憧れてた?」
無性に、潮江のことが知りたくなった。潮江がたまにする、あの悲しい顔をする理由が知りたかった。ただ、まだ、おれはその理由を聞いたらいけない気がした。だから、一つずつ、知ろうと思う。少しずつ、近づけたらなと思う。潮江が待つと言ったあの日から、おれは少しずつ変わっている気がするから。
「小さい頃か?忘れたな…」
「おれはさ、忍者に憧れてた」
すると潮江は目を見開いて、おれを見た。それはもう、驚いた顔で。
「ウルトラマンとか仮面ライダーとかじゃなくてさ、昔どこかで見た忍者になりたかったんだ」
しばらく驚いた顔のまま微動だもしなかった。ピタリと動きを止め、最早、呼吸すらしていないのではないかと思うほどだった。
「………そうか、」
「…っ!!」
先ほどまで微動だにしなかった潮江が、ふわり、と微笑んだ。今までに見たことのある誰のどんな顔よりも何倍も、何十倍も優しかった。
おかしい。なんでこんなに心臓がうるさいんだ。おかしい。なんでこんなに顔が熱いんだ。
潮江はおれに手を伸ばすとぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜて、もう一度「…そうか、」と呟いた。それがなんだかくすぐったくて。
「やめろって…」
「あー悪ィ悪ィ、」
悪びれなく無邪気に笑った潮江の大きな手が頭から離れていく。それを少し寂しく思うのは、なんでだろうか。
おれには、まだわからない。