忍たま長編1/勿忘草

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「予想以上に予算が余ったな」

「潮江がケチケチするからだって。この間なんかさ、生物委員の奴が、金魚の水草が買えねえ!!って怒ってたぞ」

放課後、おれと潮江は今月使われた金の会計をしている。春からケチケチ予算を立てる潮江に各委員が、予算が少ねぇ!!と抗議の声が上がっていたのだが、潮江は各委員会が必要としている一覧表を見て「無駄遣いするな!これもそれもあれもいらん!!」と一蹴していた。だからか、予算が余りに余ってしまっている、というわけだ。

「…仕方ないから生物委員には予算を多めに分配するか」

「というか、生物委員だけでいいと思うぞ」

「…確かにそうだな。他の委員会は学校側が負担するからな。…学校の予算案が非常に気になる…!無駄遣いしてそうだ!!あの生徒会!チャラチャラしている!!」

潮江はどうも予算会議を合戦かなにかだと思っている様だ。だから、予算会議があると知ったときの潮江の目は……ギラギラとしたハンターのような目をしていた。

「じゃあ高二になったら、生徒会に立候補しなきゃな」

「当たり前だ!あの弛みきった生徒会をぎんっぎんに叩き直してやる!」

「ははっその意気その意気!」

おれは、なんでも必死にやる潮江を気に入っている。なんか、熱意とか、情熱とか、内からみなぎるものがすごく熱くて、すっげえいい奴だと思う。何て言うか、それこそ「ぎんっぎん」にすごい奴。

ふと、窓の外に視線を移した。この学校は、窓側には中庭が広がっており、ドア側、つまり廊下側にはグラウンドが広がっている。その中庭が、何と言うかまあ、殺風景だ。芝生や木だけで、花がない。こういうちょっとした所を改善すれば、もっと綺麗な学校になると思うんだけどなぁ。

「渚、どうした?」

「いやあ…なんか殺風景だなぁって思ってさ…花がないよな花が。もっとさ、こう、花があった方が見栄えがいいじゃん?それになんか、せっかく花壇があんのに雑草ばっかって……どうなんだよ…なあ、そう思わねぇ?」

今まで外に向けていた視線を潮江に投げると、おれは思わず息を呑んだ。だって、潮江があまりにも優しい顔をしていたから。

「…そうだな。俺もそう思う」

そして、潮江はその優しい目をしたまま、外に視線を移した。その横顔に夕日が当たって、ドキリとする。何だってんだよ、なんで、そんな顔すんだよ。おれは、いつまで経っても潮江のそんな顔に慣れる自信、ねぇよ。なにこれ、おれ、ほだされてんの?それとも、何か他にあんの?

「残った予算、使うか」

「へ?」

「花、買いたいんだろ?」

「え、でも……」

かつかつ予算案を作る潮江が、花を買うための予算をくれるとは思わなかった。中学では何となく花壇の雑草を抜いたり、水を撒いたりするだけで、本格的に花を育てたことはない。もしかしたら、枯らしてしまうかもしれないし、虫にやられてダメになるかもしれない。種から蒔いて育てるのも、苗から育てるのもそれなりのリスクがあると思う。クラス費で買うような大層なもの、する自信はない。

「よし、じゃあ分かった。生物委員と協力して花壇の整備にも当たろう。それなら予算を花に回してもおかしくないだろ?美化委員にも協力してもらえたらなおのこといいな。あとは任意で参加してもらえればいい。明日、学級委員に提案して、それから先生に提案しに行こう。恐らくだが、仙蔵も喜んで手伝うだろうな。」

「潮江、めっちゃ乗り気じゃん」

「まあな、」

「なんで?」

素朴な疑問だった。ぽろっと出た言葉をこんなに広げられるとは思ってなかった。たかが、花壇一つなのに、なんで

「お前が、渚が、したいと思うことはやっぱり支援したいからな」

そう言った潮江は、にこやかに、だけど視線はおれには向けずに視線を紙に落とした。こっち向けよ、とか考えた自分に少し驚きながら、おれは雑草だらけの花壇に目を向けた。

「……そっか、ありがとな」

「いや、」

なぜか懐かしさを感じるこの空間に少しでも長くいたいと、そう思った。





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