忍たま長編1/勿忘草
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「あ!いたいた!」
帰りに図書館に寄って、今の時期に蒔ける花を調べていると、どうしても潮江と決めたくなったため、本を借りてみた。靴箱に行くと、どうやら潮江はまだ帰っていないようだと教室まで来てみると、潮江と愉快な仲間たちが集まっていた。
「…え、何このお通夜テンション」
いつも集まればワイワイと楽しそうにしているメンバーなのに、今はどうもそうではないみたいだ。え、まじどうしたんだよコレ。
「…なんでもないよ」
善法寺が困った顔をしながらおれに言った。机の上に広げられているのは、どうやらおれが借りた図鑑とは別の植物図鑑のようだ。なんだ、潮江も調べてたんじゃん。
「おれもさ、何の花がいいかなって調べてたんだよ。で、なんか潮江と調べたくなってさ!なんかいいのあった?」
潮江は何とも微妙な顔をしていて、とても珍しい。いつもおれといる時はこんなじゃないのに。
「何見てんの?」
「…なんでもねぇ」
「えーなんか隠される方が気になるんだけど」
「なんでもねぇよッ!!!」
バンッと大きな音をたて、本を閉じた勢いのまま立ち上がった潮江はどこか切羽詰まった顔をしていた。
「…あ、ごめん。なんか気に障ることした?」
潮江が、何もなしに怒るわけないのは知っている。前におれが怒らせた時も、「おれが忘れた何か」のせいで心ない言葉を言ったからだ。じゃあ、今は?
「――いや、俺が悪い。」
ごめんなとおれの頭を撫でる潮江は、やはりどこか無理をしているように見えた。いつもみたいに闘志みなぎる潮江でいて欲しくて、おれはニコリと笑ってみせた。
「…ちょっとさ、散歩行かない?」
――――…
愉快な仲間たちに「潮江を借りるぜ!」と言うと、「さっさと持って行け」と言う立花を皮切りに他の愉快な仲間たちからもシッシッと虫を追い払うように教室から見送られた。それに少しだけ不満げな顔をした潮江は、普段より高校生らしくて笑ってしまった。とてもじゃないけど、十五、十六には見えないからなぁ。
「なぁ、潮江」
「ん?」
「おれ、毎日が楽しいよ」
潮江と立花と話したり、愉快な仲間たちと話したり。潮江に勉強を教えてもらったり、一緒に昼メシ食ったり……
毎日のなんてことないことが凄く楽しくて、毎日学校に来るのが楽しみで。朝起きるのが面倒だと思う時も、学校に行けば楽しいことがあるって思うと身体が動く。
「何て言うか……とにかく明確にこれだ!!っていう楽しいことがあるってわけじゃなくて、なんかめっちゃ楽しい。」
中学の時も楽しかった。でも、それとは少し違う楽しさだ。
「なんでかってさ、考えたんだ。そしたら、中学の時と違うことを一つだけ見つけたよ」
何が楽しいかは、確かに明確には分からない。でも、これだけは明確に言えること。
「分かる?」
「…いや、」
「ホントに?」
「焦らすなよ」
少しだけ不機嫌な顔をした潮江の顔を覗き込んだ。
「潮江たちに出会えたこと」
春に出会ったとき、何なんだこいつらなんて思った。突然、「やっと見付けた」だなんて言われて、潮江に抱きしめられて。衝撃的な出会いだったけど、確かにおれの中で大事なものが蓄積されていく。
「なんて言えばいいんだろうな。なんか、不思議な気分になるだよなぁ。なんか、胸の奥がじんわりと暖かくなるような、キュッと泣きたくなるような、懐かしくて安心するような……」
青く澄み渡る空はいつかの空と同じに見える。だけど、やっぱりどこか違うんだろう。なんでだろうな、なんでこんなに泣き出したい気分になるんだろうな。
チラリと潮江を見ると、今にも泣き出しそうなクシャクシャな笑顔を浮かべていた。