short**krk
□飴玉
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試合後に涙を流したのなんて、初めてだったんじゃない?
もう、しょうがないなぁ。
「彼、強かったね。」
声をかけても見向きもしない。
タオルを頭にかぶせたまま、俯いている。
「こら、こっち向いてよ。あーつーしー。」
そういって、わたしは震える背中に手を置いた。
ゾーンに入ったってことはそういうことだ。
本当は好きなんでしょ?ばすけ。
負けるのはもっと嫌い、だなんて。
いい加減、気づくのが遅すぎよ。
「…うるっさいなぁ、もう。
どっか行っててよ、まじうざい。」
素直じゃないんだから。
顔、隠しすぎだよ、ばか。
「これ。あげるからさ。」
彼に見せたのは、いちごの飴玉。
確かこれが一番好きだったはず。
「じゃあね。」
どっか行ってろなんて言われるなら仕方がない。
従ってやろう。
「……、」
無言のデカ物を無視してくるっと後ろを向く。
大きいのは体だけ?
「あ、…がと。」
背中に向けられた言葉と声には、気づかないフリをしてあげよう。
飴玉。
(いちごの飴に籠めた想いは、彼に届いたのだろうか。)