short**krk
□あなたの体温
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ガチャッと音がしたときにはもう遅かった。
教室の床に広がったガラスの破片とお花、そしてわたしたちの今の状態を考えると頭が痛くなってくる。
そもそも誰が悪いかって、わたしをからかった友達が悪いと思う。
教室の端で緑間くんと談笑する高尾くん(笑っているのは彼だけだが)を見て、頬を染めるのはわたしだけじゃないはずだ。
"ならアタックすればいいじゃーん!"
と、からかった友達に押され、本当に物理的に彼にアタックしてしまった。
反射神経のいい2人はすぐさま避けたが、わたしはそうは行かなかった。
よろけたわたしを高尾くんは右手で支え、それでも止まらなかったわたしのせいで彼の手は花瓶に激突。
花瓶が倒れると思って手を出したわたしはもっと悪いかもしれない。
いや、確実にわたしが悪い。
後ろに倒れるはずだったそれは、わたしたちの方へ倒れ、床に落ちた。
そうして今の状況…床に広がったガラスの破片にお花、水びたしの高尾くんとわたしがいるのである。
「ご、ごめんなさ、」
とっさに謝ったが、それはうまく声にならない。
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
「…あー、俺は大丈夫。」
普段は明るい彼も今度ばかりは怒ってしまったんだろうか。
「え、っと、まず床片づけなきゃいけないよね、いや、その前に服濡れちゃってるから…ご、ごめん、これで拭くね!高尾くんのシャツ!」
パニクってポケットからハンカチをとりだすわたしは周りから見たら滑稽そのものだろう。
友達を睨むと、何故か彼女はにやにやした顔でこっちを見ている。
いや、助けて!
「いや、俺はいいからお前拭けって!!」
「え、ううんっあたしガラス片づけるから!」
「ば、っか触んなって!んなもん手じゃなくてほうきでやるもんなの!」
「あ…」
恥ずかしい、もうやだあ。
「ちょ、真ちゃん俺の学ランとって!」
「…まったく人使いが荒いのだよ」
「早く!」
水が冷たい、涙が出てくる。
俯いているとバサッと肩にかけられる何かと、高尾くんの匂い。
「これ、着てろ、な?」
驚いて顔をあげたら何故か彼も驚いて。
「真ちゃん…俺、女の子泣かしちゃったんだけど…」
そう言って抱きしめられた。
「怒ってねーしさ、泣きやめって、」
彼もわたしも水びたしなのに、とてもあったかかった。
あなたの体温。
(透けてるんだよ、ばかやろー。)