short**magi

□歌う声
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「っは、今回も派手にやりやがったなァ。」


空から地上を見下ろす。

黒ルフによって支配された人同士でやりあうなんてことはよくあることだ。



ひとつ、国がなくなった。



「あー、戦争してぇ。最近の煌帝国はおとなしすぎんだよ。」


なに考えてんのか知んねぇけど、さっさと戦争しようぜ。


堕天してるこの身としては、あの妙に明るいルフは目に痛い。





「ーーーっ、ー、」


「あ?」


ふと、歌う声が聞こえた。


見下ろした惨状。人々の顔はどれも暗い。(けっ、堕天しちまえ。)



そんな中で、このアンバランスな歌声。

楽しそうだ。



「あーれかー?」


見るとそれは美しい女で。

自分とさして変わらない年頃なのではないだろうか。



「こりゃまたいい顔してんぜ。」



その女のもとへ降りると、そいつは気配を察したのか、閉じていた目をあけ口を閉じた。


「俺の気配に気付いたのか?おっもしれー。」


「…だぁれ?」



嘲笑する俺に、女は舌たらずな声で話しかける。



「ジュダル、お前は?」


「マリア…。」


「マリアねぇ、母の愛歌ってか。
はっ、笑える。」


笑う俺をおかしく思ったのか、マリアは首をかしげた。



「んーで、なんでお前はここで歌ってたんだよ。」


「うた…好きだから。」


「こんな惨状で歌うほどか?」


「惨状?どこが惨状なの?」


「あー?」



人間にもこんなやつがいるなんて。

これを惨状と呼ばないなら、なあ、お前はなんて呼ぶんだよ。



「この国は、いずれ終わる未来だった。それが早まっただけ。」


「へぇ。」


「だからわたしは賛美の歌を歌うわ。」


「お前の国じゃねーの?俺にはそのへんの感情はよくわっかんねーけど。」


「みんなで作ろうだなんて共和制、ほんうに成り立つと思う?
そんな綺麗事、並べるから自滅するのよ。黒いルフでね。」



ふふ、と嬉しそうに笑うその女は今まで会ったどの女よりも綺麗だ。



「黒いルフ、ねぇ。見えんのか。」


「うん、あなたも、堕天してるのね。」


「…まーなー。」


「だけど、綺麗だね、そのルフ。」



意味が、わからない。


堕天している自分を綺麗というのか。




んだよこの女。

「狂ってんな、お前。」


「ただ人間が嫌いな人間よ。
それくらいいたって良いでしょ?この世の中。」


そうして彼女は、目を閉じて歌い始めた。




そして言うんだ、歌の中で。






歌う声。


(Human beings are endlessly intelligent as well as bottomlessly stupid.)


人間は果てしなく賢明で、底知れず愚かだ。

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