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□あの日、わたしは歌を歌えなくなった。
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あの日、わたしは歌が歌えなくなった。
「なあロックオン、お前は聞いたことあるか?」
「あん?なにをだよ。」
「歌。彼女の歌だよ。」
それは寒い冬の朝だった。
地球に降りていたわたしたちソレスタルビーイングは、各部屋で休憩するもよし、また近くの自然を感じるのもよしだった。
「そういう刹那は聞いたことあるのか?」
「俺は…前に、1度だけ…」
「へえ。」
刹那とロックオンの会話を聞きながら思う。
わたしの歌は迷信に近い。
誰もわたしが歌を歌うなんてしらないし、ましてや歌が本当に存在するのかもしらない。
歌。
それは希望の歌ではない。
賛美の歌でもない。
きっとわたしは、この世の汚い部分を見すぎたんだ。
そう、それは破滅の歌。
「どこからともなく聞こえてくるなんて、そんなことあるのか?」
「ああ。俺も前、自室で聞いた。外からなのか、それとも船の中からなのかもわからない。」
「見に行こうとか思わなかったのかよ。」
「動けないんだ。」
「動けない?」
「そうだ。体が動かなくなる。不思議な歌だ。」
そんな大層なものじゃない。
わたしにはこの世界の終わりを望むことしかできない。
口を、開ける。
…うん。まだ大丈夫だ。
わたしは歌える。
浮かぶの、口を開いたら浮かぶ。
ひどい状況も、楽しい状況も。
だから不思議。
わたしは、まだ歌を口ずさむことができる。
自己満足で歌っているだけなのに、迷信のように扱われてしまって、なんだか気恥ずかしい。
マイスターでも操縦士でもなんでもないわたしは、この船の中ではお荷物なのかもしれない。
それでもここにいられるのは、ロックオン…彼に拾ってもらったから。
どこまでも優しい。
わたしを置いて行ったりしない。
「お。よっ、ハルネ!」
だからまだ、わたしは歌を歌える。