long**ガンダムSEED

□3.敵
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薬品の臭いで目が覚める。
肩が痛む。

「…いた…。」

おまけに手も縛られている。
入念なことだ。



「おーーー。起きたか。」

反射的に体が強張る。

「おいおい。そんな気張るなよ。
肩の手当てだってしてやったろ?」


首をならしながら部屋に入ってきたのは、どうやら医者のようで。
40代くらいだろうか。
ザフトの隊服ではない。白衣を着ている。



「縛り上げといて、よく言うわね。」

「仕方ねえだろうが。」

医者は眉をしかめて、「敵さんなんだからよ。」と呟いた。










「娘さん、軍に入ってしばらくか?」

ベッドの上で大人しく天井を眺めていると、ふと医者が話しかけてきた。


「…ええ。3年ほど。」

「歳はいくつだ?」

「23よ。」

「…そうかい。」



そうしてまた、会話が途切れる。
別に、この医者と会話がしたいわけではない。

コーディネーターだもの。




「人を殺したことはあるか?」

「あるわよ。」

「そうかい…。」





「コーディネーターは嫌いか?」

「さっきから何なの?ザフトでは、医者が尋問を行うのかしら?」

不定期にされる質問に、不満をこぼす。


「ああ、いや、悪いな。違うんだ。」

医者は目を閉じて、


「俺の娘も、生きていたらお前さんくらいだと思ってな。まさかあの機体のパイロットがこんな娘さんだと思っていなくてよ。つい会話がしたくなったんだよ。」



何かを思い出すかのようにそう言った。


「…お嬢さんがいたのね。」

「ああ。血のバレンタインで死んじまったけどなあ。妻と一緒にな。」

「そう…。」


お気の毒に。という言葉は出てこなかった。
仕方ないじゃない…。戦争だもの。



血のバレンタイン。

私が軍人になってすぐに起こった、地獄のような事件。


でも。
コーディネーターが悪いのよ。
だって。
コーディネーターがいるから。


遺伝子操作なんて、自然のことじゃないもの。

ナチュラルだけでいいのよ。

区別が差別になるじゃない。

私から大切な人を奪ったじゃない。









頭の中で、言い訳のような言葉を並べる。
コーディネーターが悪いと。



「娘さん。」

気がつくと、医者がこちらをじっと見ていた。

「俺は、あんなことがあっても、ナチュラル全員を憎むことはできなかった。」



悲しそうに。こちらを見ている。


「俺たちは、何のために戦っているんだろうなあ。」







敵。
(戦争とは、そういうものだ。)
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