short**magi

□何もかも捕らわれて。
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足を踏み入れると、もう二度と他国には行きたくなくなった。


ああ、なんていい国なんだろう。





なにより人の顔に笑顔がある。


わたしも、こんなところに生まれてきたかった。






王宮に入るのは簡単だった。


だけど視線は感じていた。

嫌な目だ。すべてを見透かしたような。





わざと無視して近くの部屋に入る。


だめだ、この国はわたしには明るすぎる。






「お一人で来られるとは度胸がおありなのですね。」


「…わたしはあなたの主を手にかけにきたわけじゃない。」


「おやおや、随分と面白い戯れ言を。」




この部屋に入ってくるのは知っていたし、それを拒む理由もない。


ここで殺されるとしたら、わたしの運もそれまでだったっていうこと。




「ちょっと疲れたの。休ませてもらえる?」


目の前の男は未だ警戒を解かない。

鋭い目だ。



「休む暇をあなたに与えるとでも?」


「ほんとうに、殺す気なんてない。それにしてもあなた、暗殺者の目、隠さなくてもいいの?」



ふっと笑う。


「別に同じ業者の方に隠す必要もありません。かく言うわたしも、あの方を殺しに来たことがありますから。」


「…ジャーファル?」


「おや、わたしの名をご存じですか」


誰だって知ってるわ。

暗殺関係の人ならね。





「さて、そろそろ吐いてもらえませんか?」


「何を?言うことなんてなにもない。」


「…貴様はどこから来た?」


「物騒なしゃべりか、…っ」 



言い終わる前に、首に食い込む男の手。



「か、はっ」


「ここで絞め殺すことだってできますよ。」


男の力は増していく。




「主は、も、ころ、…したっ、あなたの、王を、こ、ろす気は、ない…っ」


苦しい。


「なら何故ここに来たのです?」


「っ、」


息が、できない。


生理的に出てくる涙で目の前が揺れる。




揺れる景色の中で、男の表情はまったく揺るがない。





「女だからって手加減されると思うな?なんならもっと古典的な方法で吐かせてやろうか?」


そういって彼は自分の武器を取り出す。



「ほんと、よ。」


殺す気なんてないわ。

一目、一目でいいから会いたい。





目で男に訴えた。

はじめて、男が動揺をみせた気がする。


「あなた、お名前は?」
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