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□約束
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朝起きて携帯を見ると、ハンパない数のメールやラインの通知。

「誕生日おめでとう!」だの、「Happy Birthday!」だの、とにかく山ほど。



起床してベッドの上で30分間、携帯の画面とにらめっこ。

なんとか全てに返事を返し終えた。

せやけど...一番欲しい人からの連絡はなかった。

まあここしばらく連絡取ってなかったし、忘れてても仕方ないやろな。

そうや、前向きになれ前向きに。

自分に言い聞かせて、練習へ。



右膝がどうにも調子が悪くて、世界選手権は辞退。

俺は出たいって言ったんやけど、残念ながらドクターストップには逆らえんかった。

ついてへんなあ、と思っとった矢先の誕生日。

これでアイツからの連絡があれば、ほんまに世界選手権出れんくなったことも帳消しに出来るくらい幸せやのになあ。

なーんて、今更何を考えとるんや俺は。



ほら、言わんこっちゃない。

俺の悪い癖...その時の心境がすぐ滑りに出る。

膝が痛いだけじゃこんな転び方しない。

リンクの上に寝転んだまま、高い天井を見上げる。



不意に目閉じたら、あいつの顔が浮かんだような気がした。

元気なんかなあ。

久々に、会いたい。

こんな気持ちになるんは、生まれてこの方一人だけ。



何故か涙が出そうになるんを堪えて、目を開ける。



「みーーーつけた!」



大好きな声...?

聞きたかった声...?

嘘や。

だってなんでこんなとこにおるねん。



「大ちゃんやっと見つけた!って思っとったら...なんで寝とるん!?」



いやいや、幻聴かもしれへん。

俺最近疲れとるし。



「せっかく来てあげたのに!大ちゃんのばか。はげ。」

「俺はばかでもないし、はげとらんわ!」



重い体起こして、返事してみて、その時初めてこれが現実だって分かった。



「あれ、寝てたんとちゃうの?」

「寝とらんわ。それよりありさ...なんでここにおるん?」

「決まってるやーん!今日誕生日やろ?せやから来てあげたんよ!」



久々に会った俺の初恋の人は、えへへ、なんて相も変わらずお茶目に笑っとる。



「覚えてくれとったんか?」

「当たり前やん!なかなか連絡できんくて、堪忍な。プレゼント、準備しとってん!」

「ありさのことやから、何くれるか心配やわ...」

「しーつーれーい!そんなん言うやったら、何もあげへんから!」



こいつもほんまに単純やなあ。

ありさからのプレゼントやったら、なんでも嬉しいわ、あほなんかこいつは。



「嘘や嘘。...んで?何くれるん?」

「気になるん?」

「気になる。」



リンクサイドに上がり、ありさの傍まで寄る。

ふわっ、とありさのお気に入りの香水の香りがして、不覚にもどきっとしてしもうた。



「まず...改めまして、お誕生日おめでとう。これ...気に入るか、分からへんけど...!返品は受け付けんから!」



渡されたんは、水色の小さい紙袋。

その中に入った小さい水色の箱。

中には小さい十字架がついたネックレス。



「こ、これティファニーやん!」

「や、やっぱこういうのって女々しいんかな...?」

「そないとちゃう。ほんまに嬉しいんやけど...高かったやろ?」

「んな気にせん!大ちゃんのためやもん!」



そう言うてくれるありさは、やっぱし昔となんも変わってへん。

誰より可愛くて、優しくて、素直なんや。

そんなありさやから、俺は惚れたんや。



ネックレスを早速付けてありさに見せびらかした。



「どう?似合う?」

「似合う!大ちゃんのために買ってよかったわ!」



にこにこ笑うありさを見て...やっぱし、好きやと思った。

好きや好きや好きや。

ほんまは今すぐ俺のもんにすることやって出来るんやで?



「ほな...あたし、そろそろ帰る!大ちゃんの練習の邪魔しとうないし!」



おおきに、って手をひらひら振るありさ。

そんな姿見て、俺はありさの腕引いて、気付いたらありさのこと抱き締めとった。

だめだって、分かっとるけど...

今だけでええから...許して。

ありさ...



「大、ちゃん...」

「俺の気持ちはなんも変わってへんねん。俺は...ありさのこと今でも好きや。誰より幸せにする自信あんねん。せやけど、」



せやけど、な?

俺の幸せとありさの幸せが違うことくらい分かっとる。

そこまで俺は馬鹿やない。

せやからこそ、俺の今の幸せは...



「せやけど...?」

「結弦と、幸せに、な。」



ありさが幸せになること。

ただそれだけが、俺の幸せやから。



「大、ちゃ...ん...」

「泣くな。ブスなるで。結弦に嫌われても知らんからな。」

「ぶ、ブスちゃうもんっ...!」

「せやったら泣くな。ほら。」



ばか。

ほんまに泣きたいんは俺の方や。

今更何も言わんし、言われへんねん。

口出す権利なんてあらへんから。



ありさの涙を拭ってやって、ほんでもっかいだけ抱き締めた。



「今はとにかく!結弦と幸せなれ!ほんで、な?俺から1個だけ...一生のお願いや。」

「何...?なんでも言うて。」

「...来世は俺と居て。」



一世一代。

こんなこと言うんは、生涯お前だけやから。

お前以上に好きになれる存在なんて、この世にはおらへんから。

すると、ありさはまた涙を落として言う。



「来世でも、よろしくね...!」





今はまだ遠い存在。



せやけど俺は、「約束」っちゅう最高の誕生日プレゼント手に入れたんや。











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