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□焦がれる
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チャイムが一日の終わりを告げる。
鞄と、マフラーを片手に、急ぎ足で学校を出る。
向かう場所はいつも決まってる。
外はむしむしと暑いけど、建物に入ると一変、ふわっと冷気が身体を包む。
管理人のおじさんに、「いらっしゃい、また来たのかい。」なんて声をかけられちゃうほど、わたしはここに通ってる。
所謂常連さんってやつかな。
わたしはスケートなんて出来ない、これっぽっちも。
それでも、毎日ここに通う理由は一つだけ。
そろそろかな。
なんて思ってると、丁度やってきた。
わたしの王子様、羽生結弦くん。
黒い練習着に身を包んだ王子様は、リンクを一周した後、くるくる回ったりしてる。
氷とはお友達ですって感じ。
本当は女の子なんじゃないかって疑っちゃうくらい、指先とかがすごくしなやかで、体も柔らかくて綺麗。
かと思えばほら、力強いジャンプもこなしちゃう。
すごく離れたところにいる羽生くんがこっちを見たような気がした。
気のせいかな?なんて、じっと見つめていると、にこっとはにかんで軽く手を振ってくれた。
その王子スマイルにあたしはもっともっと、羽生くんに夢中になって行く。
存在を分かってくれたこと、ただそれだけがここまで幸せだなんて。
それはきっと、あたしがあなたに、恋焦がれているから。