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□泣く
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『一番に、見せたいんだ。』
結弦くんから電話を貰ったのは昨日の夜のこと。
次期のショートプログラムが完成したことを、あたしに真っ先に教えてくれた。
そして今日、久々にアイスリンク仙台へ向かう。
管理人のおじさんに、「お久しぶりです。」と挨拶するとにこにこしながら、「どうぞ。」って中へ通してくれた。
ふわっと冷気に包まれて、目の前に広がるスケートリンク。
いつの間にか大好きになってたこの空気。
「来てくれてありがとう。」って、氷上をするすると滑って、こっちに来た結弦くん。
「こっちこそ、あたしに一番をくれてありがとうっ。」
そう言って笑うと帽子の上から、ぼふん、と頭を撫でられた。
そのまま何も言わずにリンクの中央に行った。
結弦くんが合図を出すと、最近結弦くんが口ずさんでた曲が流れ出す。
一言じゃ言えない。
彼は、結弦くんは、綺麗だった。
男の子に使うのはちょっと変かもしれないけど、それしか言葉が見つからない。
美しくて、綺麗で、背中には翼でも生えてるんじゃないかってくらいなの。
2分50秒なんて、ほんの一瞬。
でも、一生見ていられるくらいのもの。
少し息を切らしながら、さっきと同じようにこちらに近付いてきた結弦くん。
「泣くなよー、名無しさん。」
ははっ、と笑いながらふざけたように言って、あたしの頬を撫でる。
言われて初めて泣いてるって気付いた。
「あ、ご、ごめっ...」
そう言ったら、なんか自然と涙が出てきた。
な、なんで泣いてるのあたし...
自分でもよく分かんないけど。
「泣き虫名無しさんー。」
茶化すように言って、抱きしめられる。
ああ。
好きすぎて、愛しすぎて、また泣きそう。