□頷く
1ページ/1ページ











「好き」って言えたらいいのに。

告白、とかいうものを堂々と出来ちゃう人が、心底羨ましいと思う。



結弦くんにとってあたしなんて、ただの友達かそこら。

ただ単に家が近くて、
ただ単に練習してる場所が一緒で、
ただ単に帰り道が一緒なだけ。

せめて、この赤面症と恥ずかしがりが無ければなあ...



暗くなった道で、背の高い結弦くんの後姿を追うように歩きながら、
そんなことを考えていた。



...分かったよ、分かりました。

絶対絶対ありえないけど、万が一、もしも、何かの間違いで、
今この帰り道の間に結弦くんが振り返って話しかけてくれたら、あたし、告白する。

これ破ったら100万円払います。

まあ絶対ありえないけどね!

3年間ずっと同じ光景を繰り返してきたのに、今日に限ってそんなことある訳ないよね!



「名無しさんちゃんってさ、面白いよね。」



え...?

思わず俯いていた顔を上げて立ち止まると、結弦くんも立ち止まってこっちを見てた。



嘘、信じられない。

こんな偶然ってありえますか、神様。

それとも結弦くんは読心術でも使えるのでしょうか...



「そ、そうかなあ...?」

とりあえず焦って返した返答。

「うん。だって、リンクの上じゃあんなに表情豊かなのに、こういう時は何にも喋らないし、静かじゃん?」

それはあなたが好きだからですよ!

気付いてください。

「あ、え、えと、そ、それは...」

あああああ、だめだめ。

絶対あたし、今顔赤い。

「名無しさんちゃん、顔赤いけど熱でもあるの?」

き、気付かれてるし...

「ね、ね、熱なんて、な、ないよっ...!!」

恥ずかしくて堪らなくなって、俯いて隠そうとした。



すると突然、頬に両手を添えられて上を向かせられる。

「熱はないみたいだけど...なーんてね。」

しばらく間があってから、また口を開く。



「俺は、好きなんだけどなあ。」



頭の上にハテナがいっぱい浮かぶ。

そして、言われた言葉を脳内でもう一回再生してみる。

『俺は、好きなんだけどなあ。』

口をわなわなと震わせて尋ねてみる。

「あたしを、です、か...?」

結弦くんは頬に触れていた手を離し、何歩か歩いたところでまた振り返って。

「うん。」

小さく頷く。



頷いてくれた彼に、次にかける言葉は決まってる。



あたしも、好きです。












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ