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□囁く
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今日は本当に暇です。
勉強しろ!って話なんだけど、勉強にも身が入りません。
今日は何だかよく知らないけど、『羽生結弦くん、一日密着取材!』的な特集で、
学校にカメラマンが来て、結弦くんに付きまとってる。
むー、あたしの結弦くん...
なんて我儘も言っちゃいけないよね、うん。
分かってます。
テレビに出てる結弦くんは、みんなの羽生結弦くんだよね。
暇だけど仕方ないかあ。
学校の中で結弦くんを見つけても、カメラマンが邪魔で話すことも出来ない。
それがさらにあたしを萎えさせる。
思わず溜め息をついた。
昼休み、ほんの一瞬でいいから、結弦くんに会いたいなあ、なんて思って、
隣の教室を覗きに行った。
相変わらず集っているカメラマン。
ぐぬぬ...やっぱり近寄れない...
仕方なく黙って見つめていると、結弦くんがカメラマンに何か話して、こちらに向かってきた。
カメラマンは付いてこない。
教室から出てきて、結弦くんがあたしを見つめる。
それだけでドキッとする。
一回も話してないだけあって、目も合わせられない。
すれ違いざまに結弦くんは、ちょっと屈んであたしの耳元に顔を寄せる。
「今夜、俺の家、ね。」
そう囁いた後は何も無かったかのように、トイレの中に消えていった結弦くん。
自分でも顔が熱くなって、恥ずかしかった。
それは反則なんじゃないですか、結弦くん。
あなたの囁きは、単なる愛の言葉よりも、
あたしを夢中にさせちゃうの。