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□見つける
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もう、だめだと思った。
練習からずっと成功率の低かった4回転サルコウは転倒。
それを見越したプログラムにしていたとは言え、まさか3回転フリップでやらかすなんて想定外だ。
自分でも何故転倒したのかよく分からない。
頭がぐるぐるして、パニックになりそうだ。
ああ、この大舞台で自分は何をしてるんだ。
昨日の自分はどうしたんだよ。
様々な面からのプレッシャーと、自分の中のプライドがごちゃ混ぜになった。
今この一瞬一瞬が、スローモーションに感じて、いろんなことが頭を廻る。
ああ、記憶の中でもあの子は笑ってる。
きっと金メダル逃したら、あの子は泣くんだろうな。
『あたしが結弦くんの練習を邪魔しちゃったからかな』なんて言うのかな。
...違う、違う。
俺が見たいのはいつもの名無しさんだ。
瞬間、俺は奮い立たせられた。
俺が、やらなきゃ。
その時、見つけたんだ。
客席に、この世で一番澄んだ瞳で、祈るように俺を見つめる、この世で一番愛しい存在を。