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もう、だめだと思った。



練習からずっと成功率の低かった4回転サルコウは転倒。

それを見越したプログラムにしていたとは言え、まさか3回転フリップでやらかすなんて想定外だ。

自分でも何故転倒したのかよく分からない。



頭がぐるぐるして、パニックになりそうだ。

ああ、この大舞台で自分は何をしてるんだ。

昨日の自分はどうしたんだよ。

様々な面からのプレッシャーと、自分の中のプライドがごちゃ混ぜになった。

今この一瞬一瞬が、スローモーションに感じて、いろんなことが頭を廻る。



ああ、記憶の中でもあの子は笑ってる。

きっと金メダル逃したら、あの子は泣くんだろうな。

『あたしが結弦くんの練習を邪魔しちゃったからかな』なんて言うのかな。

...違う、違う。

俺が見たいのはいつもの名無しさんだ。



瞬間、俺は奮い立たせられた。

俺が、やらなきゃ。



その時、見つけたんだ。

客席に、この世で一番澄んだ瞳で、祈るように俺を見つめる、この世で一番愛しい存在を。











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