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□眩う
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「結弦くん、疲れないの?」
気付いたら一時間滑りっぱなし。
あたしなら死んじゃう。
今期で大分体力つけてきたとは言え、息も上がってきてるはず。
ただでさえ喘息とか持ってるのに...
「疲れてない。」
スケートやってる時は目が本気だから、基本冷たい返事が返ってくることが多い。
疲れてない、ってのも嘘。
遠目だけど、息が上がってるのが見える。
苦手な4回転サルコウを再び飛ぶ。
でも失敗に終わる。
氷上に仰向けで倒れ、「くそー...」と拳を握る。
スケートに関しては負けず嫌いで、弱音も吐かないし、妥協もしない、プライドも高い。
いいことなのか、悪いことなのか。
意地っ張りで、体壊しちゃったらやだよ、結弦くん。
なんだか泣きたくなってしまう。
ベンチで結弦くんのプーさんのタオルを握り締めて俯く。
やっと折れて帰ってきた結弦くん。
「あ、お、お疲れ様...」
急いでタオルと飲み物を渡そうとすると、タオルの変わりに腕を引かれて抱き締められる。
「え!?え、えっと...これは...?」
体が一旦離れ、結弦くんの手があたしの頬に手を当てられる。
さっきとは打って変わって、いつもの優しい結弦くんに戻ってる。
「俺は、大丈夫だから。昔みたいに弱くないし、喘息だって前よりは良くなった。それはさ、スケートやるためだけじゃなくてさ、」
言いかけて、そっと口付けられる。
「弱かったら、名無しさんのこと、守れないでしょ?」
結弦くんの言葉は魔法みたいに、あたしの頭の中を埋め尽くす。
「...あたしのこと、守ってね。」
「ああ、もちろん。」
私に注がれた、目が眩う程の甘い言葉。