□慰める
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幼馴染の名無しさんは、いつだって笑ってる。

今日もまた、いつものように笑ってるんだろうな、なんて。

そう思ってた。



名無しさんとは家が近いし、練習してるリンクも一緒で。

練習が終わると、家に帰る以外何かすることがある訳でも無いから、嫌でも一緒に帰らなければいけない。

そして今日もまた、その時間がやってくる。

名無しさんはまたいつもの如く、へらへら笑いながら、
「今日の晩ご飯何かなあ!?」なんて話すのかと思ってた。



そんな俺の予想とは真逆で、今日の名無しさんはやたらと静かだった。

どうしたのかと名無しさんを見やると、顔を深く俯かせている。

話しかけるべきか、放っておくべきか。

迷っていると、名無しさんの方が先に口を開いた。

「なんか話しかけてよぉ...」

昔から何も変わらない、我が儘姫だ。

「ったく...どうしたんですか、お姫様。」

仕方なさげにそう聞くと、俯いたまま一滴二滴と、地面に雫を落とした。

「ふられたの。」

一言そう答えた名無しさんは、それ以上は何も言わなかった。

そう言えば名無しさんは、同じクラスの男子バスケ部のやつが好きだったんだっけ。



...ああ、なんでだろう。

上辺だけでも、とかでも、面倒臭いから、とかでもなく、本心で慰めてやりたいと思った。

名無しさんのへらへらしたような態度は、うざったいとまで思ってたはずなのに。

今となっては、恋しささえ感じる。

我ながら悔しい。

名無しさんの笑顔を見たいと、思ってしまった。



生憎、俺は器用な人間じゃない。

女を泣き止ませる方法なんて、一つしかしらない。

道の真ん中で、名無しさんを抱き締める。

その時初めて知った。

こんなに、小さくて弱い存在だったってこと。



泣きたくなったら泣いていいよ。

俺が慰めて、そんで抱きしめるから。












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