□口付ける
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「ゆーづーるー、ちゅー。」

我が儘姫のご登場。

今日こそは聞いてやらない、と決心し、聞いてないふりをする。

「う〜...ゆーづーるー...」

ぶりっこしたって無駄無駄。

...なんて思ってたんだけど。



名無しさんは背中にしがみついてきて、「ちゅー」をせがんでいる。

まるで、本当の赤ちゃんみたいに。

「ねーえーっ、結弦ー、ちゅーうー。」

ああもう、仕方ないな。



俺はくるりと名無しさんの方を向いて、口付ける。

ちょっと虐めてやりたくなって、敢えて唇ではなく、額に。

「ああん、唇にしてよぉ...」

「やだねー。」

一生懸命口を尖らす名無しさんが可愛くて可愛くて仕方がない。

だから名無しさんへの意地悪はやめられない。

頬に、こめかみに、瞼に。

それでも名無しさんは、名無しさんが望んだところに口付けられないことに、
不満そうな顔をする。



「ねえっ!く...唇に、してよぉっ...」

「じゃあ名無しさんからしてよ。」

えっ、と驚いて声を上げた名無しさんは、少しずつ顔を紅潮させていく。

ほんの少し、愉快な気持ちで笑いながら見つめていると、俯いて目を泳がせた。

思わず、今すぐキスして、それ以上のこともしてやりたいとまで思ったが、そこを何とか堪える。



心を決めたのか、名無しさんは赤い顔のまま膝立ちになって、顔を近付けてきた。



…―



一瞬だけ唇に柔らかくて温かいものが触れる。

...そんなんじゃ、

「...足りないよ。」

直後、名無しさんを押し倒して、もっと深いキスをしてやる。

甘い声を上げた名無しさんは、もっと顔を赤くして俺に言うんだ。



「もっとたくさん...口付けて。」












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