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□夢見る
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「名無しさんさんは、進路どうするんですか?」
名無しさんさんは俺と同じ東北高校で、歳は2つ上の高校3年生。
家がたまたま近くて、登下校を共にすることが多かったため、仲が良かった。
でも俺からしてみれば、ただの「仲のいい先輩」なんかじゃない。
「あー進路ねぇ...まだ考えたくないなぁ、あはは。」
確かにまだ7月半ばだ。
決まってない、という人も少なからずいるんだろう。
名無しさんさんは少し困った顔で笑いながら、自分の長く伸びた髪を触る。
髪を触る名無しさんさんの仕草には、何度でも胸が高鳴ってしまう。
俺は、名無しさんさんが好きだった。
出会ったときから、ずっと。
でもきっと、名無しさんさんは俺なんか見ちゃいない。
綺麗だし、スタイルもいいし。
何より俺は年下。
こんなにも歳の差というものが邪魔だと思ったことは無かった。
もし俺に、あと少しでも勇気があったなら...「俺のこと、どう思ってますか?」くらいなら聞けただろうに。
「結弦くんはスケートがあるからいいよね...あ、今年の冬の大会、ちゃんと見に行くからね!」
「本当ですか?じゃあ俺、めっちゃ頑張りますね。」
楽しみだな〜!と、両手を合わせて満面の笑みを見せる名無しさんさん。
人をこんなに好きだと思うことがあると思わなかった。
「あ、でも名無しさんさん、試験とかあるんじゃないんですか?」
「ま、まあいいんだよっ!そんなのこれから決めるし!」
名無しさんさんはまた笑う。
その笑顔が、またさらに俺を夢中にさせていく。
そんな笑顔に尋ねてみたいことがあります。
名無しさんさん、
あなたが夢見る未来に、俺の存在はありますか。