□狂わせる
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あの子はまたああやって笑うんだ。

誰彼構わずあんな笑顔向けるんだ。

純粋で天然って、あの子も罪な子だとつくづく思う。

自覚が無いのが恐ろしい。

だってさ、気付いてないでしょう?

今や町田くんも、崇ちゃんも、大ちゃんだってあなたの事「可愛い」って言ってるんですよ。

でもさ、名無しさんさん。

あなたを手に入れるのは俺ですよ。

名無しさんさんは俺といればきっと幸せになれる。

俺がきっと幸せにしてみせるよ。




だから俺はあなたに言った。

「俺、好きです。名無しさんさんのこと。」

でも名無しさんさんは言うんだ。

「ありがとう、可愛い弟ちゃん。」

なんて、うふふ、といつもの少女のような笑みを浮かべながら。



名無しさんさん。

俺、やるときゃやる男ですよ。

あなたを今すぐに壊すことだって出来るんだ。

無理矢理にでも手に入れる事だって出来る。



たまたま俺の練習を見に来てた名無しさんさん。

リンクは貸し切り。

今日はコーチもつけてない個人練習の日だから、名無しさんさんと二人きり。



名無しさんさんに、弟のような存在としてしか見られていないということを知って、
今まで俺の中に存在しなかった独占欲が生まれた。

更にそれに拍車がかかって、気付いたら動いてた。

こうしてやろう、と思うより先に体が動いてた。



スケート靴のまま、見学用のベンチに座る名無しさんさんに近付く。

きょとんとした顔で俺を見つめる名無しさんさんを押し倒した。

「ちょ...!何するの、結弦くん!」

名無しさんさんの細い両手首を、名無しさんさんの頭上で押さえつけて、抵抗も出来なくして。

綺麗な唇に無理矢理口付けた。

大きな瞳からは涙が零れていた。



俺が怖いですか、名無しさんさん。

こんなのおかしいと思いますか、名無しさんさん。



狂ってると、思いますか。



そうですね。

俺は狂ってる。



でも狂わせたのは他でもない、あなたですよ。





なんならあなたのことも、
狂わせてあげましょうか。












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