めいん!

□卑屈女と黒い犬
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名無しさんは朝食の時、たまに悪戯仕掛人を盗み見る。
正しくはそれらに絡まれているリリー・エバンズを。



名無しさんは所謂トリップした人間で、
所謂原作知識も持っていた。
故に彼らの未来も知ってるし、誰が誰を好きなのかも知っている。



名無しさんはホグワーツに通っていて、エバンズを見て、度々思うのだ。
彼女は逆ハー補正を持っているのではないかと。

忌み嫌われるはずの赤毛は、リリーのそれだと思うと特別神聖に見えたし、
嫉妬の象徴と言われる深いエメラルドグリーンの瞳も人を魅了して止まない。
すらりとのびる白い手足に、美しい顔。そして、その頭脳。

彼女にこれといって欠点など無いのだ。


そもそもの話、名無しさんは日本人であるから、
黒目黒髪の黄色い肌で、寸胴な体で手足は短いのだ。
リリー・エバンズは名無しさんの欲しいものはすべて持っていた。

彼女の魅力に負けた人間は多い。
セブルス・スネイプ、ジェームズ・ポッターが代表的だが、
リーマス・ルーピンも、シリウス・ブラックだって。
ピーター・ペティグリューはよくわからないが、原作では皆、彼女を愛していたと名無しさんは記憶していた。

『魔法も、私も、彼女のことも、あまり好きになれそうにない』

名無しさんは久しく使っていなかった日本語で、今の心情を整理した。






……………………






シリウス・ブラックは朝食の時、必ず彼女を盗み見る。
皆彼女を蔑むけれど、シリウスにとって彼女はとても、魅力的な人間だった。


シリウスがいつも見ている少女は、所謂黄色人種だ。
それを彼女は深く気にしているようで、自分の肌を恨めしそうに見ていた。
イギリス生まれ、イギリス育ち、両親は二人とも日本人で魔法使い。
これが、シリウスが女共から集めた彼女の全てだった。
名前は自分で聞きたかったから、教えてもらっていない。
ただ、話しかけようと思ってから何ヵ月もたっているのだ。




いつも彼女を見ていることは、悪戯仕掛人の三人はもちろん、リリーも知っている。
そしてシリウスがとてつもなくヘタレなのも気がついている。

「シリウス、話しかけたらどうだい?」

ジェームズがシリウスに声をかけた。
たった一言なのに、それはシリウスに多大な影響を及ぼしたらしい。

「ななななな、なに、は、はなしかける?お、おま、ちょ……は?」

シリウスを見て、ジェームズはため息をついたし、
リーマスは情けないとばかりに目を反らしたし、
ピーターは珍獣を見る目でシリウスを見ている。
リリーは苛立ったようにシリウスをにらんだ。

「いい加減にしなさい、ブラック」

地を這うような声だった。
その場の温度が5度は下がった。ジェームズの周りは2度上がったが。

「いい加減にって……」

シリウスが蚊の鳴くような声で言った。
彼が動物もどきの状態だったら、確実に尻尾を巻いて後ろにさがっていただろう。

「いつまでもうじうじうじうじして、イライラするのよ。
貴方、ほんと意気地無しよね。それでもグリフィンドールなの?
はっきり言ってうざいわ。全盛期のポッター並みにね。
今日の夕食後、話しかけなさい。絶対よ。
話しかけなかったら、いいこと?
貴方は明日、この場に存在しないわ」

ピーターが短く悲鳴を上げた。
シリウスなんて恐怖で声が出なかった。
ジェームズはリリーに惚れ直したと騒いでいるし、
リーマスは我関せずな態度だ。

「よろしいかしら?」

「お、おう」

ジェームズは、明日シリウスに会えたら奇跡だと思った。
図体がデカイだけの黒い犬は、図体の分だけヘタレ度もデカイのだから。

そしてリリーは、言ったことは必ずやりとげる。
ああ、さようならシリウス。
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