パラレル

□HERO
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今日は早朝デートだった。
総司が大学へ進学し、千鶴は受験生の春。
二人の時間がなかなか合わず、苦肉の策でひねり出した結果だったが、まだ人の少ないさわやかな空気を吸って、総司はこの提案が案外悪くなかったかもしれないと思う。

いつも人の集まる公園は、今は早朝のジョギングや犬の散歩の人がまばらに通るだけで、人気が少なく、恥ずかしがり屋の千鶴とイチャイチャするには、よい状況といえる。

「ちょっと早く来すぎちゃったかな。」
千鶴は今頃、できたての弁当を横目にあわてて身支度している頃だろうか。そんな様子を思い浮かべてニンマリと笑みをこぼす。
しかし、待ち合わせの時間まで、まだ1時間近くあった。手持無沙汰に周りを見てみると、木立の向こうの芝生広場に、なにやら多人数の人影とワゴン車を数台認める。
早朝の公園に似つかわしくないその光景に、暇を持て余していた総司は何気なく近づいて行った。

***

『――そこに現れたのは、見たことのないアーマードライダー。
ユグドラシルが新たに開発した“ブラックチェリーエナジーロックシード”によって、謎の青年は【仮面ライダーグラム】にその身を一瞬にして変えた!
「お前は一体!」―――』

「到着しましたー!」
そこまで台本を読んだところで背後から大きな声がかかった。
やっと、今日の撮影を始められる。私は台本を放り出して、椅子から立ち上がった。

***

「だから、何のこと?僕は関係ないって言ってるじゃない。」

現場へ行くと、なにやら揉めている。
事情を聞けば、出演予定の俳優ではなく、一般人を間違えて撮影現場に引き込んだようだった。しかも聞けば、予定の俳優は体調不良のため、現場への到着が危ぶまれている。

現場を不穏な空気が流れる……。実を言えば、撮影スケジュールは押しに押していて、今日のこの撮影は代替日を設定することがほぼ不可能な状況だった。

…何とか今日の撮影はこなしたい。そもそも今日の俳優の出番はゲスト的なもので、正直誰が演じようが後のストーリーにはあまり影響はない……。
そこまで考えて、スタッフが平謝りしている件の一般人を見やる。
なるほど、スタッフが俳優と間違えるほどの、見目麗しい青年だった。

『苦しいときの神頼み』
そんな言葉が頭をよぎりながら、私は徐に青年に近づいた。
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