パラレル

□甘い戯れ
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――思えば、今日は朝からツイていなかった。
最初はあれだ。

明け方に近い朝っぱらから、総司に喰われた。
そのおかげで、大幅に寝坊した。
当の総司は、早朝ミーティングがあるから、とベッドに沈む千鶴の頭頂部にキスを落とし、早々に出社してしまう。

なんでそんなに元気なのかと恨めしく早朝出勤する背中を見送ったのが最後の記憶で……、目覚めたときには部屋が明るすぎて眩暈がした。
大慌てて出社したものの、駅ではパスケースを忘れて自動改札に激突し、髪も化粧もできていなくて、手櫛で撫でつけた髪をサイドテールにゆるく結び、ぎりぎりセーフで朝礼に並んだ。

そこに意味ありげに笑う総司と目が合い、ついつい顔が赤らむ。
こんな反応をしてしまうから意地悪されてからかわれるとわかっているが、これは性分。もうどうしようもない。


学生時代から付き合う二人は、総司の勤める会社に千鶴が追うように入社すると同時に同棲を始めて、もう二年。
独占欲の強い総司の性格と、恩人が経営し、同僚にも旧知のメンバーが揃うこの会社では、二人の仲はすぐに周知された。

それでも数多いる女性社員から人気の総司はいつでも噂の的だった。そのため始めは敵視された千鶴も、その元来の性格の良さから次第に愛され対象となり、総司を愛でる女性たちにも好意的に接してもらえていた。
結婚はいつするのか、と誰もが思っている二人だったが、その実、総司の厄介で面倒な性格を知る旧知の者は千鶴に同情しつつも、奴の相手をできるのは千鶴しかいない、というのも共通する見解だった……。



明け方の眠りの深いときに無理やり覚醒させられ、変な時間に二度寝した頭がうまく働こうはずもなく、午前中はコピー枚数を百枚単位でミスしたり、机の引き出しに指を挟んだり、小さなツイない出来事が重なる。
おまけに朝食を取り損ねたから、お腹が鳴るのを必死で抑え込むはめになった。

昼休みにやっとランチにありつこうと思えば、恋人が自分を捕まえに来た。
小声で抗議をするも、「寝言で可愛く『総司さん』なんて言う君が悪いんだよ。」などと理不尽な責任転嫁をされる始末。

もっと文句を言いたかったが、ランチもそこそこに立ち上がり、忙しそうな総司に「これから近藤さんと外出なんだ。ちょっと大きな仕事でね。近藤さんも期待してる。たぶん遅くなるから、夕食は先に食べてていいよ。」と張り切る様子を見せられては、笑顔で「いってらっしゃい。」と送り出すしかない。
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