パラレル

□PussyCatはお好き? 第1回
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午後のオフィスには、大きな窓から柔らかな温んだ日差しが差し込んでいた。師走の足音も近いこの頃は、日の沈むのが早く、昼休みのこの時間にももう日は西へ傾きつつある。

千鶴は自席で持参した弁当の空になった容器をランチョンマットに包んで片づける。
会社に備え付けのサーバーでコーヒーを淹れ、食後のコーヒーと、これまた持参した焼き菓子を楽しもうと席を立つと、1列向こうの席に沖田が座っているのが見えた。
昼休みだというのにまだ仕事中なのだろうか、彼は菓子パンをかじりながら、自社のカタログとパソコンの画面とを見比べている。
そう広くないオフィスのフロアには、今は千鶴と彼だけ。コーヒーサーバーへは彼の横を通ることもあり、千鶴は様子を伺いながら、沖田に声をかけた。

「沖田さん、お疲れ様です。あの……、コーヒー、お飲みになりますか?」
声をかけられた沖田は傍らの千鶴を見上げて微笑んだ。
「いいの? ありがとう」
「いえ、私もちょうど飲もうと思っていたので」
千鶴はコーヒーサーバーを操作し、コーヒーが入るまでの間にお菓子の包みを開ける。最近気にいってよく作っている、くるくる模様のクッキー。ちょっと考えてから、沖田の分を持参したペーパーナプキンに包み、コーヒーに添えた。
「どうぞ。」
さりげなく出したつもりだが、沖田は目ざとくお菓子にくいつく。
「これ、もしかして手作り?」
「……はい。沖田さん、甘いものお好きでしたよね。よろしければ召し上がってください。」
沖田は嬉しそうに「ありがとう、じゃあ遠慮なく」と礼を言って早速クッキーをひとつまみ口に放り込んだ。味を気にして黙って見つめる千鶴に、咀嚼しながら「うん。おいしいよ。」とこれまた無邪気な笑顔で返される。


沖田は千鶴が入社当時の指導社員だ。
二人が勤めるのは、中小規模のアパレルメーカー。主に女性向けのいくつかのブランドを展開し、アパレルとはいっても雑貨や食品なども取り扱っている。
自社店舗のほかに、時代を反映してウエブショップもあり、業務は多岐にわたっていた。そのため、各部署の人数割りが細かく分離され、沖田と千鶴が所属するブランドの部署も総人数は10名に満たない。そんな中での関わりのため、自然同じ部内の結束は強まった。
千鶴も今年で3年目。もちろん今は指導社員の沖田について仕事をすることはなく、お互い別のチームで働いているが、今でも互いに仲良く、特に沖田は千鶴を気に入り、なにかとちょっかいをかけていたが、――二人がこうなったことに、当時、周囲は驚きを隠せなかった。
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