パラレル

□PussyCatはお好き? 第3回
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 本来なら今日こそクリスマス当日というのに、イブに楽しい夜を過ごした面々には二日酔いの者なども多く、明けて二五日のオフィスはやや気の抜けた雰囲気だった。

 たしかに仕事面でもクリスマス商戦がほぼ終わり、女性をメインターゲットにしている自社がひとまず落ち着くのは、当然かもしれない。
 そんな中で、千鶴のチームがクリスマス向けイベント商品として出した例のランジェリーが、よい売れ行きだったことを受け、早くも社長の近藤から賞賛をいただき、普段厳しい部長の土方までもが、「よくやったな」と労いの言葉を向けてくれた。

 千鶴のチームは鼻高々で、特に千鶴はリーダーの斎藤にも過大なほどの評価を受け、恐縮する一方、やはり、自分でもやり遂げた達成感に喜びが浮かぶ。

 オフィス全体が称賛ムードの中、沖田も例にもれず、千鶴に「おめでとう」と改めて言ってくれた。
 正直、ちょっと複雑な気もするが、そこは好意を素直に受け止めようと、「ありがとうございます」と笑って答えた。

 しかし、そんな和やかな雰囲気も束の間。
社員から陰で〔鬼〕と称される部長の土方が「おらっ! 年末年始にゆっくり休みたきゃ。気ぃ抜いた顔してないで、とっとと働け!」と発破をかけ、皆は渋々ながらも気を取り直して仕事に戻った。


 ――そしてあっという間に時は過ぎて、夕方。
 千鶴は時計を気にしながら、テキパキと仕事を片付けていた。
 クリスマス当日の今日は、やはりいつもよりは早目に帰宅する人が多く、社内は人がまばらになっていた。

 千鶴はパソコンの電源を落とすと、同じ列の二つ向こうに座る斎藤に声をかけた。
「すみません。お先に失礼いたします」
 斎藤は目線で千鶴に答え、すぐに仕事に意識を戻す。

 千鶴はロッカーへ行き、コートを来て携帯で時間を確認した。(よし。今から行けばまだ約束には余裕で間に合う)これからの時間を思って、かすかに笑みながらエレベーターホールへ向かうと、オフィスから出てきた沖田と鉢合わせた。

「お疲れさまでございます。お先に失礼しますね」
「お疲れ様」

 エレベーターを呼ぶため千鶴がボタンを押したと同時に、携帯の震える音がホールに低く響いた。

「…………」

 音は千鶴の携帯からだった。

「……なんか、おんなじことが昨日もあったね」
 慌てて鞄を探る千鶴に沖田がぽそっと呟く。
千鶴は頷きながら、手にした携帯の着信を確認すると、兄の薫からだった。沖田に目顔で断り、千鶴は電話に出る。

「……もしもし?」

 沖田がその場を去ろうとするのを見て、千鶴が会釈をすると、そのタイミングで先ほど呼んでしまったエレベーターが来てしまう。
 千鶴が電話に出ているため、沖田が先客に断わりを入れてくれた。
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