パラレル

□Pussycatはお好き? 最終回
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「……そんなこと言っても仕方ないでしょ。もう、覚悟きめてよ、千鶴ちゃん」
「で、でも私やっぱり……」
「もとはと言えば君が悪いんだよ……。もう、僕は引けないよ」
「お、沖田さん! 待ってください! あの……きゃあ!」
千鶴はあわてて顔を両手で塞ぎ、身をよじった。



「……ハァ……」

沖田の呆れたような溜息がわざとらしいくらいの大きさで耳に届く。
「……あのねぇ。手当するって、僕の部屋に押しかけたのは君でしょ。それを今更、いい加減にしてくれる?」
沖田の声は抑えてあったが、明らかにイラっとした色が含まれていた。



――三十分ほど前、沖田の部屋へ通された千鶴は早速手当をしようと意気込んだが、帰宅したばかりの部屋は寒く、「部屋が温まるまでちょっと待ってよ」とエアコンを入れながら言われた。
ワンルームの部屋は、ほどよく片付いておりローテーブルの前にある、床置きのソファクッションをすすめられる。

「何か飲む?」
部屋を見回したい衝動を抑えていた千鶴に、冷蔵庫を空けながら沖田が声をかけた。
「いえ、あの手当させていただいたらすぐ帰りますので、お構いなく」
千鶴が部屋の様子に気を取られているのがわかったのか、
「どうぞ。じろじろ見てもいいよ」
沖田はふふんと笑って千鶴をからかう。

「ちょっと待っててね」
そして入ってきたのとは違う扉の向こうに消えた沖田は、戻ってきたときにはジャケットの代わりにセーターを羽織り、その手には救急箱を持っていた。
一人暮らしの男性の部屋にそんなものがあったことに驚いた千鶴だが、またもや表情に出ていたのだろう。沖田が聞いてもいないのに回答をくれた。
「剣道やってるって言ったでしょ。打ち身なんかは日常茶飯事でね。こういうの届ける会社と契約して、月に一回補充してもらってるんだ」
そんなサービスがあることにも驚いたし、千鶴の表情を読んで的確に答える沖田に千鶴はぽかんとしてしまう。

そうしているうちに部屋の暖房がきいて、ほどよく暖まってくる。
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