パラレル

□PussyCatのしくじり
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その日――。
総司の機嫌は朝っぱらからMaxと言っていいほどに悪かった。
今日は2月13日金曜日。何の変哲もない平日で、当然総司は仕事に来ていた。
しかし、その職場で、身体から黒い瘴気をまき散らすように近づきがたいオーラを出し、顔見ればうっすら笑顔でいるものの、こんな黒い笑顔ができるものかというくらいの真っ黒な笑みを顔に貼り付けていた。
総司の機嫌をここまで悪くしている原因の見当がついているのは、社内ではおそらく同僚の斎藤や藤堂、部長の土方など、総司の昔なじみで社外でもあれこれとつき合いのある数名の者だけだった。
その他の者はさわらぬ神に祟りなし、とばかりに見て見ぬふりをして総司に近づかないようにしている。

「おっかねぇなぁ……見ろよ、総司のあの顔」
コーヒーを啜りながら、平助が斎藤に話しかけると斎藤がチラと総司に目を遣り、軽くため息をつく。
「まあ……原因はアレだろうけどな」
平助の言葉に斎藤もその目線を追って、フロアの向こうを見遣った。
そこには数人が輪になって談笑している、どこにでもあるオフィスの風景があった。
それがいつもと違うところがあるとすれば、男性陣が手に華やかにラッピングされた小箱や袋を持ち、女性陣がちょっとだけ照れた様子でいること。
そう、今日はバレンタインデーの前日。
今年、バレンタインデー当日は土曜日ということもあり、総司たちのいる会社は休日にあたるので、社内の女性社員が男性社員へチョコレートを渡していたのだ。
みんなで渡しているが、義理チョコを装いつつ、本命もいるかもしれない。そこはかとない駆け引きを水面下で行いながら、談笑は続く。
――そして、その輪の中に千鶴もいた。
平助は自身も先ほどもらったチョコレートを開けつつ「千鶴のは……食わねぇほうがいいかな」と、ぼそりと呟いた。
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