パラレル

□甘い戯れ
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午後にはやっと調子が戻り、さあがんばらなきゃ、と思ったものの、寝不足がここでも祟って、午後の緩い陽ざしについついあくびが出る。見かねた上司に軽く注意を受け、気合を入れなおし、なんとか終業時刻を迎えた。

総司が遅くなるというなら、自分もどこかへ寄ってから帰ろうかとも思ったが、何もできていない割に蓄積した疲労と、やはり疲れて帰ってくるであろう恋人を労って迎えたいとの思いから、近所のスーパーで夕食の買い物だけして帰ることにした。
しかし、ツイていない日というものは、とことんツイていないらしい。
最寄り駅でまたもや自動改札に突っ込み、恥ずかしさで逃げるように急げば階段を踏み外し、軽く足をひねった。
足を気にしてゆっくり歩いていたら、スーパーのタイムサービスに間に合わず、目当てのものを買い逃してしまう。予定していたメニューの変更を余儀なくされ、朝からのあれやこれやも思い出して、軽くため息をついてレジに並ぶと、催事売り場に山積みされた赤い箱が目に入る。
(そういえば、今日は……。)
千鶴はちょっと考えて、赤い箱ともう一つ、ピンクのイチゴ味の箱をカゴに放り込んだ。
このお菓子を総司と食べて、笑って戯れて、今日という一日を気分よく締めよう、と思いながら。


***


総司は予告に反して、意外に早く帰宅した。
遅くなるとのことだったので、先に夕食を済ませてしまった千鶴は驚きつつも喜んで出迎える。
しかし、総司はどこか上の空で、それとなく事情を問えば、先方でのプレゼンにおいて提案内容の急ぎの修正を求められ、今夜中に仕上げて、また明日の朝に早朝会議にて打ち合わせ、ということだった。
そのため夕食も早々に、総司はノートパソコンをリビングのテーブルに据え、書類とにらめっこし出した。
普段、総司は仕事を家に持ち込まない。そんな彼がこうまでしているのだから、よっぽど大切な案件なのだろう。近藤も期待していると言っていたし、張り切るのもわかる。
千鶴はそんな背中を見つめて、食器の後片付けをする。食後のコーヒーも入れた。
ほんとうならコーヒーと一緒に、スーパーで買ってきたあのお菓子を食べたかったけれど、この様子では……。


「総司さんコーヒーです。」
「うん、ありがとう。」
書類からチラと目線をあげてお礼を言う総司に微笑みかけた。
「……あの、お菓子買ってきたんです。一緒に出しますか?」
「うーん。……小一時間くらいで終わると思うから、それから二人で食べよう。」
「わかりました。」
そのまま千鶴は総司の傍に腰を下ろし、自分は雑誌を広げた。

そしてそのまま三時間が経過する――。
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